第47章 嵐、束の間の静けさのち嵐 前編
あの振袖を 自分の目の届かない
タンスの奥底に押し込んで
しまってしまって居た様に
この記憶も 記憶のタンスの
奥底に しまってしまって居たんだ
もう それは
叶わない約束だからって…
忘れた事に してしまっていた…んだ
ずっと…
ポロっと自分の目から
涙が零れて来て
そのまま ポロポロと
次から 次へと零れて来て
「す、すいません…、
お見苦しい…所をお見せしまして…ッ」
人前だからと押さえようとした涙が
堪え切れずに零れ落ちて
次々にあげはの頬を濡らす
「いいえ。
見苦しいなんて感じておりません。
あげは様のその涙の理由は、
それだけそのお振袖が、
あげは様にとって
大切な物の証にありますので」
「春日…さんッ、
そうです…あの振袖は。
私にとってとても、
大切な…、親友の形見にあります」
「そうでありましたか」
そのまま 春日はそれ以上の事を言わずに
無言のままで 付かず離れずの距離で
私の涙が落ち着くのを待っていてくれて
落ち着いた頃を見計らって
話の続きを始めた
「振袖は未婚の女性でないと、
着れませんから。たまたま前に
振袖を引き振袖に仕立て直して
着ていた友人が居たのを思い出しまして。
本来は引き振袖は、式が終われば
黒留袖に仕立て直すのが
主流にありますのですが。
あまり、振袖を引き振袖に仕立て直すのは
例が少ないのかも知れませんし、
だからこそ、
あまり馴染みがなかったのでしょう」
「私も、そう思って居たので。
振袖を引き振袖に仕立てるなんて、
発想にもなりませんでして…。
春日さんがそう言って下さったから…、
着る事も無い物と思って居たのですが…。
どう、感謝すればいいのか…。
言葉では言い表し切れなくて。
感謝する事しきりにあります…、
ありがとうございます、春日さん」
そう感謝の言葉を春日に言うと
あげはが深く頭を下げた