第6章 無限列車にて 後編
猪頭のガキがこちらへ
飛んで来るのが見えた
猗窩座が体を引いて
自分の両腕を力任せに引きちぎると
頸に杏寿郎の刀を刺したまま
林の中へと入って行った
早く…逃げなければ 早く…
陽光の届かないところまで…
早く…っ!
ゴォオオオオ
炎を纏った呼吸をすると
炭治郎が振りかぶって
逃げる猗窩座目掛けて刀を投げつける
「逃げるなぁーー!!逃げるな!
卑怯者!!」
暗い林の奥へと
鬼は吸い込まれて消えて行く
見えていた背中も
もう見えなくなってしまいそうだ
「いつだって鬼殺隊は、
お前らに有利な夜の闇の中で
戦っているんだ!」
炭治郎がそのまま言葉を紡いでいく
溢れ出す感情を
そのままその叫びに乗せるかのように
「生身の人間がだ!
傷だって簡単には塞がらないっ!!
失った手足が戻る事もない!!」
その言葉をぶつける相手が
もうそこにはいないというのに
届くわけもないのに
言わずにはいられなかった
「オイっ!何やってんだ!
お前っ、動くな!
あげる、大人しくしてろ」
後ろから聞こえた伊之助の声に
炭治郎がハッとする
声のする方を振り返ると
伊之助が制止するのを振り切って
あげはさんが煉獄さんの身体に
きつくサラシを巻き付けながら
呼びかけていた
隠を呼ぶと 今から手術の
受け入れができる
病院の場所を確認している様だった
「君は、動くな…、君だって重症だ…。
俺はいい」
ー俺はいいー ってそんなの
そんなの いいわけ……
「いいわけ…ない!そんなの、
ダメに決まってる!私が許さないからっ!」
煉獄さんはわかってるんだ
自分がもう 幾許の命なのだと…
そして 自分の命が
尽きようとしている時に
あげはさんの命を…
無駄にするような
真似をして欲しくないんだ
今にも 自分の目から涙が
こぼれ落ちそうだった
こんな時に
自分の鼻が効きすぎるのを
恨むなんて思っても いなかった
2人の感情が強くて
匂いで俺の中に流れ込んでくる
煉獄さんがあげはさんを
大切に想うからこそ
死んで欲しくないと思う 気持ち
そして あげはさんが煉獄さんを
大切に感じてるからこそ
何があっても死なせたくないと
思う気持ち