第45章 蝶の跡は月夜に舞う
「夢を見てるのかと思って…な、
つい君をこの場に留めて置きたいと
そう思ってしまった。
今夜だけだと分かって居ながらに、
君が隣に居ないだけで、
目が冴えてしまってな。
独り寝がここまで、堪えるとはな…。
何とも情けない話だ…。
あげは。君がここに来て
まだ、いや、丁度。
一週間…になったんだな、今日で。
それなのに…こうなってしまっている」
「杏寿郎は、
寂しがり屋さんにありますね」
そう言いながら
あげははふんわりと笑った
正直 驚いてしまった
杏寿郎がこんな時間に
素振りをしてた理由が
眠れなかったからで
その眠れない原因が
私が隣に居ないからだとか
そんな事を言う杏寿郎は
何だかちょっぴり
可愛らしく感じてしまう
「責任を取ってくれるか?
俺をこうしてくれたのは。
他の誰でもない、君だからな」
「でも、夜中とは言えど…
誰かが起きて来るかも知れませんし…。
あの…、杏寿郎…」
「ほんの少しでいい。
君から、してくれるか?」
そう力ない声で杏寿郎が言って来て
出来ませんとは言いにくくなってしまう
たかだが 口付けのひとつで
杏寿郎が納得してくれるのなら…
杏寿郎は中庭に居て
私は廊下にいるのだから
当然 こっちの方が高さがあるので
口付けるのであれば
こちらから屈まないと届かない…もんな
ふぅっとあげはがため息をつくと
スッと杏寿郎の頬を撫でて
自分の両手で彼の顔を挟む
「私がそうしたら、杏寿郎は、
眠れそうにありますか?」
「ああ。君がそうしてくれたら、
ぐっすりと寝れそうだ」
「そうですか、なら。
仕方ありませんね、杏寿郎は」
私がそうするのに顔を近付けると
その気配で彼の方が瞼を閉じて来て
いつもはこっちがされる方だから
先に瞼を閉じちゃうから
こうして
瞼閉じてる杏寿郎の顔を見るのは
なかなかに新鮮な感じがするな…