第45章 蝶の跡は月夜に舞う
隣の布団では蜜璃が
幸せそうな寝顔を浮かべて
規則正しい寝息を立てていた
「ふぅ…。運動したからか、
喉…乾いちゃったな…。
お水…飲みに行こうかな」
あげはが身体を起こして
布団を抜け出して部屋を出ると
水を飲む為に
台所の方へ向かおうとした時
中庭から 素振りをしている音が聞こえて
中庭の方へ目を向けると
そこには 一心に型をなぞる
杏寿郎の姿があって
その真剣な表情に
しばらく言葉を失ったままで
その姿から目が逸らせないでいると
「ん?もしかして、あげはか?」
「あ、杏寿郎…、こんな時間に
稽古をなさっておられたのですね」
「早くに部屋の
明かりが消えていた様だったか、
寝てたんじゃなかったのか?」
手拭いで汗を拭いながら
杏寿郎がこちらへ近づいて来て
「寝てたには早くに寝ていたのですが。
その所為か、目が醒めてしまいまして。
喉が渇いたから水でもと思い…
あ、杏寿郎の分もついでですので、
お水用意して来ましょうか?
お待ち頂いても、って…あのッ」
グイっと手首を掴まれて
身体を引き寄せられてしまって
その赤い目に捕らえられてしまっていた
振り解こうと思えば振り解ける
自分の手首を掴んでいる手に
そんなに力は込めらえていないのだから
「杏寿郎、手を離して頂いても?
今…水を…取りに…ッ」
彼はその手を離してと言ったのは
聞こえて居なかったのか
信じられない物でも見てるかの様にして
まじまじと私の顔を見ていた
今 ここに私が居るのが
そんなに おかしい事なのだろうか?
「俺は起きてるか?
それとも寝てるのか?
今の君は現実か?
夢か?…それとも幻…なのか?」
そうそれを確信付ける様な
そんな質問までして来る始末で
どうやら彼には私は
夢か幻が 今のこの状況が夢なのかと
確認を取られてしまった
「私から見るに、
杏寿郎は起きておられますが?
あの、手を
お放して…頂きたいのですが?」