第45章 蝶の跡は月夜に舞う
「ふふふ、こうしてると
私が、あげはちゃんの
お姉ちゃんになったみたいだわ」
よしよしと蜜璃の手が
あげはの頭を撫でて来て
うとうととあげはが
意識を手放しそうになっているのが
蜜璃の目にも見えていて
「でも、私嬉しいの…。
あげはちゃんに、
幸せになって欲しいもの…。
煉獄さんならきっと、
あげはちゃんの事、幸せにしてくれるわ」
蜜璃ちゃん 何か言ってるけど
眠たくて…聞き取れないや…
杏寿郎が禊と軽い素振りを済ませて
自室に戻ると
もうあげはと甘露寺は休んでいる様で
向かいの部屋の明かりは消えていた
今日は色んな事があったからな
あげはも疲れていただろうし仕方あるまい
しかし…こうして改めて見ると
自分の使い慣れた部屋であるのに
あげははが居ないだけで こうも
自分の部屋が広く感じてしまうのか
そして こうも 静か…なんだな
部屋の明かりを落として
敷いてあった布団に杏寿郎が潜り込んだ
すぐ隣から聞こえて来る声も
それが寝息に変わるのも
今夜は聞こえては来ないのに
一人で寝るのも 随分と久しく感じてしまって
それも…そうか いや
つい先日だって
あげはが甘露寺の屋敷に行っている間
しばらく一人で寝て居たと言うのに
それだけ この短時間の期間で
あげはの存在が俺の中で
当たり前になって居たんだな
まだ あげはがここに来て
1週間にもならないのに
もう ずっと何年も
ここで共に暮らしていたかの様だ
それに 俺は子供か何かなのか?
たった一晩の事なのに
こうも… 居心地の悪さを感じてしまうなんて
「柱ともあろう者が、
不甲斐ない。…もう寝るか」
カチカチ カチカチ
柱に付けてある時計の音が
静寂の中に妙に響く
普段だったら気にならない秒針の音が
嫌に耳について離れない