第1章 梅の様に恋をする love affair.H
「私の選んだ小袖は?」
『…信長様よりこちらをお召しになるように、と。』
戦勝祝いの宴の準備にと自室に戻った昼下がり。
の目の前には、絢爛豪華な打ち掛けや帯、帯留めに簪が並べられていた。
「博物館級でしょ。これ。」
『は、はく?』
「あっ、えっと豪華すぎない?」
『…織田ゆかりの姫様ですから。』
「ふーん。」
桃色から深紅に移り変わる色合いに、刺繍された御所車。松の近くには亀が、背中には羽ばたく鶴が刺繍されている。
「いくらすんの、これ。」
『さぁさ、御支度いたしましょう。』
そこには二人の顔見知りの女中が立っていた。
髪を結い、付けなれない白粉を塗り紅を指す。
動けば、しゃらしゃらと音がする梅の花の簪をつける。
襦袢の上には金と銀の糸で刺繍が施された上等な小袖。
そしてごうかな打ち掛け。
『御綺麗です。』
「うん。でも動きにくいし、これじゃあお料理も食べれないよ。」
『ふっ。やはり色気より食い気か。』
馴染みのからかう声が聞こえる。
「み、光秀さん!」
『馬子にも衣装だな。褒美としては申し分ない。』
「の、信長様まで。褒美って?」
『ふっ。まだわからんか。』
信長と光秀を交互に見つめるは、漸く自身の立場を理解し始めた。
「だから、会わせてくれなかったんですか?」
『あぁ。勝ち戦の褒美が会いたくても会えなかった貴様だとは、秀吉は思うまい。』
『あいつの帰城後の働きっぷりは見事だったぞ?』
「もうっ、意地悪ですよ!」
『俺の所有物に手を付けたのだ。そのくらいはしてもいいだろう。』
「はぁ。…それで、私はどうすれば?」
『俺が呼ぶまで広間の襖の外にいろ。それだけだ。』
「わかりました。」
くつくつと笑う光秀と信長の背を見送りながら、は褒美としての立ち位置に不安を抱きながらも、あと少しで最愛の人に会える喜びを噛み締めていた。
※
賑やかに始まった戦勝祝いの宴は、主役の秀吉て政宗を囲みながら賑やかに進んでいく。
誰もが晴れ着を纏い、いつもよりも豪華な料理と酒が並ぶ。
宴は、次第に賑やかになっていった。