第1章 梅の様に恋をする love affair.H
『貴様らのほしいものを考えておく、楽しみにしておけ。』
信長は、そう言うと鉄扇をひらひらとさせた。
下がれと言う合図に、は頭を下げる。
静かに天守を後にすると、向かってくる光秀とかち合った。
『恋仲殿が、明後日には帰ってくるぞ。』
「本当ですか!」
『あぁ。』
万勉の笑みに、光秀は眼を細めた。
『秀吉と政宗の出迎えを、これから信長様と決める。なんせ年初めの勝ち戦だからな。お前も出迎えの晴れ着でも選ぶといい。』
「はい!」
は、ぱたぱたと小走りに天守を降りていく。
それはいつぞやとは違う明るい気を纏っていた。
※
「なんで会えないの?」
秀吉と政宗が凱旋して三日が経った。
なぜか、仕組まれているかのようには秀吉と全く会えていなかった。
は、秀吉の様子や会えないわけを聞くために、家康の部屋に向かい、薬草の仕分けを手伝っていた。
『戦の後処理やらで忙しいからでしょ。』
「でも、広間での食事もいないって変だよね?」
『…あの人が、溜まった政務をやらせてるからでしょ?』
「家康は、…秀吉さんに会ってるの?」
『…、うん。』
「元気だった?」
『…あんたの事気にしてた。』
「えっ。」
『あんたに早く会うためにって、寝る間も惜しんで頑張ってるよ。』
「そうなんだ。…会い、たいな。」
『明日は戦勝祝いの宴があるから、会えるんじゃない?』
「あっ、そっか!」
『…ったく、わざと距離を持たせるなんて悪趣味にも程がある。』
「え?なに?」
『いや、なんでもない。ほら、口より手を動かして。そこの薬草の仕分け間違ってる。』
「えっ、うわっ。ごめん。」
家康は、知っていた。
何故、これ程までに会わせないのかを。
それは、信長と光秀が決めたことで、宴の席で与える褒美となることを。
『せいぜい、着飾って喜ばせてあげなよね。』
「ん?」
『あんたは明日宴の支度に大変だと思うよ。』
「え?どういうこと?」
『…さぁ?』
「家康、なんか知ってるでしょ。」
『さぁ?』
「いえやす。」
『…薬草の仕分け、また間違ってる。』
「あ。」
家康の呟く言葉の謎解きを、翌日は身をもって知ることになる。