第1章 梅の様に恋をする love affair.H
「梅の花が散っちゃう…。」
風に揺れる梅の枝が揺れ、ちらちらと花弁が舞う。
梅の花言葉に似合うの想い人が出陣してから、すでに十日が過ぎていた。
『必ず戻る。俺の帰る場所はの所だ。
帰ったら、うんと甘やかすからな。いい子で待っててくれ、な?』
出陣前夜の甘い夜を思い出す。秀吉がつけた印は、やんわりと色を残すだけとなっていた。
「私も、あの梅の木みたいに飛んでいけたらいいのに。」
忠誠心の元となったあの逸話を思い出し、は呟いた。
戦況は知っていた。
案の定、相手方は籠城を始め、秀吉と政宗は陣を張り交渉をしながら出方を伺っていた。
『出来るだけ血を流さずに、ってさ。秀吉さんが政宗さんをなだめているみたいだよ。』
そう教えたのは家康だった。
出来るだけ血を流さずに、それは時間はかかるが命の危険は減るということ。だが、現代のような通信手段がない戦国時代。
数日前の事が最新情報でもたらされる。
今、もしかしたら籠城を止め攻めぎ合いが始まっているかもしれない。
祈ることしか出来ないは、唇を噛み締めながら舞い散る梅の花弁を眺めるのだった。
※
【相手側の降伏と開城】
出陣から十五日、雲ひとつない空を眺めながら、信長は囲碁の相手として真剣な眼差しを向けるへと呟いた。
「へっ!? えっ!」
『あやつの粘り勝ち、だな。政宗は物足りないだろうが。』
「皆、無事なんですか?」
『あぁ、戦わずして交渉したと記されている。武具や兵力を失わずして勝ちを納めた。秀吉の武功は高い。いい男に育てたな。』
「わっ、私は何もっ!」
『いや、貴様の存在があやつを変えた。秀吉の曲がった命の使い道を正したのだろう?俺のためにと、いつでも死ぬために使う命よりも、俺のために、貴様のためにと生きようとする命の使い方を、あやつに教えた。その成果が、この勝ちに繋がった。』
ぱちん。
「あっ。」
囲碁の並びは信長の色で占められていた。
『あやつを育て、そして帰りを静かに待ち耐えた貴様にも褒美を与えなければな。何かほしいものはあるか?』
「ほしいもの…。頂いてばかりなのに。」
『あるだろうが、喉から手が出る程ほしいものが。』
「え?」