第1章 梅の様に恋をする love affair.H
『秀吉の側で生きると話した時の強い眼差しのない、貴様の涙は迷いを与える。下がれ、。』
「…。はい。」
『お部屋に送りましょう。』
『…だめだ、三成。これから作戦を立て詰めていくんだ。席を空けるな。』
『秀吉様、しかし!』
『。部屋に戻れ。女中が居るはずだ。付き添ってもらえ。』
いつもの優しい穏やかな秀吉の声とは違う、低い声がに向けられた。
『秀吉さんらしくないですね。』
「…ありがとう。三成くん。大丈夫。先に部屋に戻ります。ごめんなさい。」
は立ち上がると足早に広間を出た。
ぱたぱたと走る音が遠ざかる。
自室で泣くのだろう、その場にいた誰もがそう思った。
『厳しいな、恋仲殿は。』
『光秀、ふざけるな。』
『俺も…、厳しいと思いました。信長様も秀吉さんも。』
くつくつと笑う光秀と、苦顔を呈した家康。
その視線に秀吉は、ふぅ、と息ついた後話し始める。
『御館様の待望は、戦のない身分のない世を作ることだ。のように戦で心を痛める者がいなくなるために、俺たちは進まなきゃならない。迷いは死を呼ぶ。あいつを護れなくなる。俺は…、あいつと生きるために御館様と共に進む。』
『ふっ、猿め。男を上げよって。』
『生きるために、護るために、戦うか。俺も奥州を守り信条のために戦う。』
『俺だって、身分のない世を、誰もが同じように笑える世を作りたい。』
『私もです。』
『…のお陰で士気が上がったようで。』
『ふっ。光秀、斥候からの報告を今一度話せ。軍議を再開する。』
『はっ。』
純粋無垢な安土の姫の涙は、各々の信条を思い出させる。
そしてその存在が、武将達の絆を強め生きる力を与えていた。
光秀の報告を聞きながら、周りを見渡す信長の眼に写る引き締まった表情の武将達。
その光景を、信長は満足気に眺めるのだった。