第1章 梅の様に恋をする love affair.H
『…戦、ですか?』
梅見の宴から少し経ったある朝の軍議。
そこでは、不安げに上座の信長に視線を移した。
軍議の議題は、最近きな臭い動きを見せ始めた国境の小国。同盟のさそいをのらりくらりとかわしている国であった。
『あそこの国は、織田と上杉に挟まれてる。どっちに着くかで世が変わるんだ。』
『そこが、食糧や武具を揃え始めているんじゃあ、こっちもゆっくりはしてられねぇな。』
『我が斥候からの報告では、二月分あたりの食糧は既に揃え終わったかと。』
『あの国は地理的にも山と川に囲また天然の要塞。作物の実りも豊かです。手にする価値は十二分にあると。』
『いかが致しますか?』
秀吉が信長に向けて、姿勢を正した。
『光秀、猶予は?』
『もって七日ほど。』
『…五日後、秀吉、政宗は小国に向かえ。まずは威嚇と交渉から。』
『はっ。』
『威嚇と交渉に応じなければ…』
『ふっ。政宗、先陣を切れ。』
『ははっ。』
政宗の口元が弧を描く。
秀吉が厳しい顔をする。
『三成は、後方支援。家康は、万が一の際の援軍準備。光秀は、このまま諜報を続けよ。』
『『『はっ。』』』
楽しい時間を過ごした穏やかな皆の顔が、武将の顔に変わる。
命の駆け引きに身を投じていく。
は同じ場所に座っているのだが、取り残されるような気持ちでいた。
戦乱の世の常として、信長の待望のためとわかっていても、愛する人や仲間の命が危険にさらされるのを、ただただ苦しく思うのだった。
『…どうした?。』
「いえ、…大丈夫です。」
『顔色悪いよ。』
『…信長様の待望のためだ、教えただろう。』
「でもっ。皆が戦禍の中に行くのは…、辛くて。」
『貴様は、やはり甘っちょろい。下がれ。今の貴様の顔は、皆の士気を落とす。貴様の愛する者や仲間に迷いを与え、死なせたいのか?』
「…っ!」
は、信長の方に視線を送る。
見開いた彼女の大きな瞳には涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうだった。
信長を囲うように両脇に座る武将達の瞳には、宴で見せたような穏やかさは微塵もなく、険しい顔つきであった。
『雪がとけ春を迎えれば、我先にと動き出す。この季節は一年の始まり。先手をうち、士気も武力も落ちていないと知らしめなければならぬ。』