第1章 梅の様に恋をする love affair.H
『ほらっ。…こっち向け。』
秀吉は振り返るの腕を、自信の首に回し横抱きにして立ち上がった。
『お前ら、明日の軍義遅れるなよ。』
『へいへい。』『わかってます。』『善処しよう。』
『真面目に!』
『朝げの御声かけは、様のお部屋でよろしいですか?』
『…っ!三成、気遣いは有り難いが…』
『三成のくせに生意気。』
『姫、お休みなさいませ。ごゆるりと。』
「…皆、お先です。信長様。おやすみなさい。」
『あぁ。ゆっくり休め。』
『では、お先に失礼します。行くぞ。』
秀吉はを抱きながら頭を下げ、広間を後にする。
『また明日な。』
政宗が手をあげると、秀吉の肩越しには手を振る。
その姿を、信長、光秀、家康と三成は穏やかに見守るのだった。
※
『水飲むか?』
「うん。」
秀吉が入ったのは広間から離れたの自室であった。
湯のみに入った水をゆっくりと飲み干す。
いつもよりも、ほんのり赤い唇が水で艶めく。唇についた水滴を、秀吉は優しく指で拭う。
『なに、話してたんだ?』
「え?」
『随分楽しそうだったな。』
「…梅の花言葉。菅原道真公と梅の木の話。」
『あぁ、梅の木が道真公を追いかけたって話か。』
「うん。ふふっ。」
『なんだ?』
「そんな忠誠心が秀吉さんみたいだって、家康が。」
『…あいつ。』
「でも、信長様の想いに真っ直ぐに応えて信じる秀吉さんは、梅の木みたいだって思うよ。どんな場所にいても、信長様のもとに飛んでいくから。…悔しいくらいに。」
『お前の所にだって飛んでいくさ。何処に居たって必ず見つけだす。』
「ほんとう?」
『あぁ。俺に生きる意味を与えてくれた、俺はじゃなきゃ駄目なんだ。が、明日を生きる糧を俺に与えてくれてる。』
「買い被りすぎ。」
『そんなことない。…今だって、もう離したくない。』
秀吉はそう言うと、を抱き締めて褥にゆっくりと倒れ込んだ。
「秀吉さん…」
『愛してる。誰よりも何よりも。真っ白な清らかな心を持つ安土の麗しき姫君が。』
梅の花を照らす月明かりが、重なりあう二人に影を落とす。
紡ぐように、確かめ合うように、真っ白な心は、今宵も染められていくのだった。