第6章 甘い罠◎
『ディナーはもう予約してるんだけどいいかな?』
傑さんが連れて来てくれたのは、横浜の夜景が一望できる、とてもお洒落で高級そうなレストランだった。
『傑さん…私場違いだと……』
急に恥ずかしくなり、傑さんに小声で訴えかける。
『君が喜んでくれるかと思ってここにしたんだけど・・・気に入らなかったかな?』
『そういうわけではないんです。
ただ、私こんなだから恥ずかしくて…』
『君は綺麗で可愛くて凛としてる素敵な女性だよ。
堂々としていいんだよ』
そう言って私の頭をポンポンと撫でる。
前と変わらず会話も弾み、傑さんと過ごす時間を楽しんだ。
デザートがやって来ると、傑さんが少し静かなトーンで話し始める。
『泉智ちゃん、何があったのか私に話せる?』
『・・・。』
私はどう話せばいいか分からず、俯いてしまう。
『無理しなくていいんだよ。
話したくないことは、無理に話さなくていい。
ただ、人に話して前を向けることもある』
ニコッと優しく微笑む傑さんに、胸がキュンとなる。
『…話を聞いて、私のこと嫌いにならないって約束できますか…?』
『例え君に嫌いになって下さいと言われても、私は好きで居続けるよ』
私は傑さんに全てを話した。
あの時の事を思い出したくない。でも、誰かに全てを話さないと前に進めないと思ったから・・・
『そんな辛い事があったんだね。話してくれてありがとう。
私はね、もちろん初めても大事だけど、初めての経験は後の経験で上書きされると思っているんだ。良くも悪くも。
5年、10年と経てば、今回のことはどんどん記憶からも薄れていく。
これから多くの人に抱かれてしまえば、上書きされると思わないかい?』
『へ…?』
傑さんの話に少し戸惑う。
『好きな人はいないのかな?
例えば先生とか、同級生とか。』
『そうですね…。
みんな大好きです。でも、恋愛とは違うかもしれません…』
『穢れは回数を重ねて薄れていくものだよ。恋愛とは別の好意であったとしても、同じ好きには変わりない。
その好きな人たちに、嫌な思い出を塗り替えてもらうのもありだとは思わないかい?』
"言っている事は間違えではないよね…
好きな人たちを頼ってみようかな…"
『…そうですよね…
じゃあ、頼ってみようと思います。』