第5章 秘密◎
いつもより少し早く目覚める。
私の手首には、縛られた赤い痕があった。
『やっぱり夢じゃないんだ…。』
昨晩は怖さや困惑でほとんど眠れなかった。
それでも頭は変に冴えていて、昨晩の出来事がいかに衝撃的だったか思い知らされる。
あの事を秘密にしようと言ったのは私。
私が動揺してたらダメだよね・・・
『いつも通り・・・ね』
自分自身に言い聞かせる。
朝食を食べるため、食堂へ向かう。
私以外の3人がすでに揃ってご飯を食べ始めていた。
『泉智おはよう!!
今日珍しく遅いわね?』
『ごめんね…ちょっと昨日遅くまで授業の復習してて…
目が冴えて眠れなくなってしまって……』
恵君が私をジッと見る。
『お前、首どうした?』
『へっ?!』
虎杖君が私をチラッと見る。
"そうだ…
昨日宿儺に奴隷の証として付けられたキスマークだ…
どっどうしよう……"
『あっ、えっ、これ…
ダニ!!ダニに噛まれちゃったの!!!』
『ちゃんと布団干しなさいよ?』
釘崎さんが返事をしてくれた。
恵君は何も言わず私をジッと見ている。
"恵君の視線痛い…"
その後は他愛無い話をして、何とかその場は凌いだ。
釘崎さんが変に勘繰らなくて良かった…と心底感謝した。
部屋に戻ろうとすると、突然恵君に手を掴まれた。
『おい泉智』
『わっ!ビックリしたぁ…
恵君どうしたの?!』
『お前、もう一回首見せろ』
『へっ?さっき見てたよね…?なんで…?』
咄嗟に隠した手を恵君が払い、キスマークが露わになる。
『これ、ダニじゃないよな?
明らかにおかしいだろ?なんなんだよこれ!!』
いつも冷静な恵君が大きな声で私に言う。
『これは・・・』
言ってしまった方がラクなのかもしれない…
『・・・ダニだよ』
違う、虎杖君にあの事を秘密にしようと言ったのは私だ…
だから絶対言えない。仲間を…虎杖君を裏切れない。
『なんでお前は隠すんだ?どうして俺には本当の事を言わない?!』
『・・・。』
『はいはいはいはい!喧嘩はやめーー!
とりあえず離れよう。
伏黒!落ち着こう!!!』
虎杖君が仲裁に入り、恵君の肩を組み、そのまま歩いて行った。
"恵君ごめんなさい…"
私は仲間を守るために、仲間に嘘をついた。