第7章 傾覆
『同意なのか聞いてるんだけど?』
『うっるせぇな。てめえ覚えとけよ!!!』
男はドタバタと大きな足音を立てて走り去って行った。
『大丈夫かい…?』
『傑さん・・・』
声の主は、傑さんだった。
傑さんが差し伸べてくれた手を握り返し、立ち上がる。
『助けてくださって、ありがとうございました…』
久しぶりに会えた事を心の底から喜ぶことが出来なかった。
"私、この人に騙されたんだもんね・・・"
『しばらく会えずに申し訳なかったね。
怒ってる…かな?』
『いいえ…』
私は俯いたまま顔を上げられない。
このまま彼の顔を見てしまったら、今までの事を水に流してしまいそうだから・・・
『私としたことが、泉智ちゃんの連絡先を聞いたと勘違いしていたんだ。
あの後お礼の連絡をしようとしたら、どこにも登録されていない事に気付いた…
君に会いたくて高校近くまで行ったりもしたけど、そんな上手く会えるはずもなくてね。
絶望してた時に、偶然ここで見付けたんだ』
『そうなんですか…』
私は小声で答える。
『…信じられないよね。
でも、これが全て本当の話なんだ。
悪かった、前のように…いや、そんな贅沢は言わない。
お友達からやり直してくれないか?』
ハッとなり、傑さんの顔を見上げると、とても優しく、そして少し悲しげな笑顔で私を見ていた。
"私何を怒ってるんだろう…謝ってくれているし、嘘には思えない。
もういいじゃないか…"
『・・・はい。じゃあお友達から…』
傑さんが差し出してくれた手を握り返す。
すると、突然腕を引かれ、傑さんに抱き締められる。
『すっ傑さん?!?!』
『ずっとこうしたかった…
こうやって君を抱き締めたかった…
許してくれてありがとう』
痛いほど抱き締められ、しばらく抱き合ったままいた。
『傑さん・・・?』
『…すまない。
これ、私の連絡先なんだが登録してもらえるかな?』
傑さんが私にスマホを差し出してくれた。
『あっありがとうございます。
これが私のです…』
傑さんの連絡先を登録してから、私は傑さんにスマホを渡した。
『また会いたくなったら連絡していい?』
『はっはい…。』
『泉智ちゃんも遠慮なくね?』
『ありがとうございます』
『じゃあ、またね』
手を振り合いながら私たちは離れた。