第7章 傾覆
俺たちは廃ホテルを後にする。
あの呪霊を祓ったからか、ホテルは静けさを取り戻していた。
バスに乗り込んでいると、五条先生と伊知地さんが外で何やら話し込んでいる。
やけに真剣に話し込む2人の会話が少し気になる。
『あの2人何話してんだろうな』
隣に座る虎杖が言う。
『この後行く所とか、旅館の打ち合わせでもしてるんじゃないか?』
俺はボーッと外を眺めながら言う。
バスに乗り込んで来た五条先生は、泉智の隣に座る。
俺からは泉智の横顔と先生の後頭部しか見えないけど…手でも繋いでるかもしれない、なんて考えるとイライラが止まらない。
『五条先生って、本当吉本のこと大事にしてるよなー!
まっ、先生はめちゃくちゃ生徒想いだけどさ。吉本のことはなんか特別だよな』
『そうだな…』
『あの時どうなるかと思ったけど、立ち直ってくれて本当に良かった。
俺、倒れてる吉本の姿忘れられなくてさ…。2度とこんな目に遭わせないって誓ったんだよ』
『そうか』
虎杖はあの時、俺が見た泉智よりも、もっともっとボロボロな姿を見たんだよな…
俺だったら気が狂っていたかもしれない。
『俺はどんな手を使ってでもあいつを守るよ』
虎杖は真っ直ぐ前を見て言う。
俺にそれを宣言されても…
お前も泉智のことが好きだもんな。見てて分かるよ。バレバレ。
そんな事を考えながらあいつのことを見ると、五条先生を上目遣いで見ながら何かを話している。
そして先生は泉智の頭を撫でたり、耳元で何か囁いている。
2人は何を話してるんだ…?
さっきは明らかにキスしてたし、五条先生は何を考えてる?
俺はバスに揺られながら、モヤモヤしていた。
あいつが他の誰かに助けを求めるのも、
あいつが他の誰かに好きだと言うのも、
あいつが他の誰かに抱かれるのも、
俺は受け入れられない。
どうすれば泉智は俺に振り向いてくれる?
今まで当たり前だと思っていた事が当たり前ではなくなった今、俺はどうすればいいのか分からなくなってしまった。
ただ・・・お前に俺だけを見ていて欲しい。
俺は景色を見ながら、出会った頃の泉智のことを思い出していた。
『あの頃に戻りたい…』