第7章 傾覆
『泉智どうした?』
どこかに走って行ってしまったと思ったら、今度は廊下で泣いていた。
『なんで泣いてるのかな?』
『私本当に弱くて…誰よりも弱くて無力なんです…
ただ、みんなの足手纏いになりたくなくて…
だから、自分の命くらいは守れるぐらい強くなれたらって思ってたんです……
弱い方が嫌われるってずっと思ってたのに…』
『恵に何か言われた?』
僕が言うと、泉智はなぜ知ってるのかと言わんばかりに目を見開いてこちらを見る。
『泉智に強く言うのは恵ぐらいしかいないからね。
恵は急に強くなった泉智をまだ受け入れられないんだよ。
ずっと自分が守らなきゃいけないって使命感みたいなものを抱えてたからね。
でも、高専にいる以上、呪術師で居る以上、強くならなきゃいけない。
泉智は何も悪くないよ』
そう言うと、僕は泣きじゃくる泉智をぎゅっと抱き締める。
ああ、このまま離したくない…
僕のモノにしてしまいたい…
僕ならこんなに泣かせたりしないのに…
・・・後ろに誰かいる…
恵か…
そうさ、しっかりこの姿を目に焼き付けて、もう泉智から手を引けばいい。
僕は泉智の顎をクイッと持ち、そのままキスをする。
"ねえ恵、どういう気持ち?"
『・・・先生?!』
驚く泉智をよそに、僕は再び泉智を抱き締める。
『泉智がどれだけ強くなっても、僕はいつまでも守ってあげられるよ。
僕、最強だから』
泉智が泣き止むまで、しばらくの間抱き締めていた。
『あれ〜?五条せんせー!吉本ー!』
悠仁が僕達を探しに来たので、抱き締めていた泉智を腕から解放する。
『2人とも何してんのー?
腹減ったから飯食いに行こうぜ!!』
・・・悠仁はいつも泉智の隣を陣取ろうとするよね?
泉智と話す時は少し頬が赤くなるクセがあるの、僕知ってるよ。
ホント、恋敵が多くて大変だな〜。
そもそも、僕はなんでこんなにも一人の女、しかも生徒に入れ込んでるんだろう…
今までに感じた事のないむず痒いような、スッキリしない気持ち・・・
笑顔も泣き顔も困り顔も…泉智の全てを"独り占め"したい。