第5章 4. 監督生の溜息
ぼそぼそとシェラが言っていることが聞き取れないフロイドは、顔を近づけながら聞き返す。
「ゆ……でいい……、ねかせ…………くだ、さい……」
ふらりとシェラの身体から力が抜けて、その場へ崩れ落ちる。
「小エビちゃん……!?」
そのまま床に倒れ込みそうだったシェラの右手と腰を支えるようにしてフロイドが抱きとめた。
しかしシェラは、フロイドに身体を預けたまま動かない。
「シェラさん……?」
「寝て……る?にしちゃ、静か過ぎじゃね」
ジェイドとフロイドは交互にシェラへ顔を近づけると、グリムを見た。
「シェラの寝息はいつも死んでんじゃねえかって心配になるくらい静かなんだゾ」
シェラの寝姿を毎晩見ているグリムは、短い前足を組みながら半呆れ顔でふたりに返す。
「……ん?ナニコレ、指輪?小エビちゃん指輪なんてつけてたっけ?」
フロイドは、シェラの右手の中指に赤い石が数個ついたゴールドの指輪が嵌っていることに気づいた。
シェラは貴金属には興味が無いと思っていたフロイドは、意外そうにシェラの指輪をまじまじと見つめる。
「いつもグローブの下につけてるんだゾ。それより、コイツ、床でいいから寝かせてほしいって言ってるんだゾ。……コイツ、オレ様の分までろくに寝ずに穴掘りを続けてくれて、今日も朝からスカラビアのヤツらと同じように特訓を受けたんだゾ」
そう、グリムは俯きがちに言う。
長い時間を一緒に過ごしているグリムは、シェラの性格をよく理解している。
ああ見えて結構頑固なところがあって、口数も表情の変化も少ないが、義理堅く優しい。
グリムは気づいていた。シェラが自分を気遣って長く寝かせてくれていたことに。
それについて言及したところで、シェラはそれを否定することが分かっていたからあえて何も言わなかった。
何も言わなかったが、心の中では感謝と申し訳なさでいっぱいだった。
「流石に疲れてると思うから……、頼むからそっと寝かせてやって欲しいんだゾ」
グリムの言葉に、フロイドは眠るシェラを見つめながら少し考えると、にぱっと笑いながら言った。
「ふぅん……。じゃあ、オレの部屋で寝かせてあげよーっと!」
「ふなっ!?」
フロイドの提案にグリムは面食らって声を上げる。