第5章 4. 監督生の溜息
心を入れ替えたようには全く見えない厭らしい笑顔。
なにか企んでいることは想像に容易い。
それに便乗するように、ジェイドもフロイドも楽しげに口元に笑みをたたえている。
本当にこの3人を見ていると、慈悲の概念がよく分からなくなる。
「毎年同じ顔に囲まれてターキーをつつくのにも飽きてきたところです」
アズールがそう言う。嫌な予感がして、シェラは眉を寄せる。
「僕達も明日からスカラビアへお邪魔しようじゃありませんか」
(僕達〝も〟……?)
嫌な予感、的中。
勘弁してくれ、とシェラは露骨に嫌な顔をした。
僕達も、というのにはシェラもグリムも含まれているのだろうか。わざわざ確認しなくても分かる。含まれている。
当然納得のいかないグリムは、シェラの代わりに拒否の言葉を並べてくれている。
それをジェイドとフロイドは笑いながらいなす。
「まーまー、アザラシちゃん。そう言うなって」
「アズールに任せておけば、きっと楽しいホリデーになりますよ」
(私達は楽しくありません)
ホリデーは休暇だ。疲労が限界だから休ませて欲しい。
しかし、モストロ・ラウンジの机や椅子の修繕費と助けてもらった労働費を請求されそうになっている身としては、強く出ることが出来ない。
「灼熱の砂漠で過ごすホリデー。悪くないじゃありませんか。楽しみですね」
ジェイドとフロイドに手土産を用意するよう命じながら、アズールは静かに笑う。
そしてそのまま一足先に寮の中へ戻って行った。
せっかく疲れた身体に鞭を打ち、睡眠時間を返上してまで穴を掘り続けて脱走してきたのに、またスカラビアに戻ることになってしまった。
またあの地獄のような日々が待っていると思うと、シェラは絶望的な気持ちになる。
「はぁ…………」
シェラは人目を憚らずに大きな溜息をついた。
息を吐くのと一緒に、一気に全身の力まで抜ける。
力が抜けると、今まで気力で押さえ込んでいた疲労と睡魔が大挙して押し寄せてシェラを攫っていった。
(やば、……もう、限界だ…………)
疲労はとうに限界を突破していた。
「小エビちゃん、楽しみだねぇ」
フロイドが上から覗き込むようにしてシェラに笑顔を向ける。
「すみ…………ん、……かで……ので……」
「ん?なーにぃ?」