第5章 4. 監督生の溜息
「それに、グリムと私はふたりでひとりですから。グリムだけきつい特訓を受けて私は受けないというのは、違うと思いました」
黒真珠の瞳はジェイドとフロイドをまっすぐ見据える。
迷いの無い口調でシェラはそう言った。
グリム本人を前にして言うのは少し恥ずかしかったが、それがシェラの本音だった。
隣でグリムは丸い猫目をさらにまんまるにして、シェラを見上げている。
静かで力強いシェラの瞳と言葉に、ジェイドとフロイドは何か思ったのか、少しの間口を噤んでいた。
「……なるほど。僕達が思っていた以上にシェラさんは真面目なお人柄だとお見受けしました」
「……私は、私の中の筋を通したいだけです」
「真面目なのはいーけどさぁ、そんなこと言ってっと小エビちゃん早死にするよ?現に傷だらけじゃん。ちょー痛そぉ。大丈夫?」
傷の具合を見ようと、フロイドはシェラの腕に触れた。
日焼けと裂傷でずきずきと痛む腕は、少し触れられただけでも鋭い痛みが走る。
思わずフロイドの手を払い除けそうになったところを、すんでのところで押しとどまり、代わりに1歩後退る。
「……大丈夫です。彼らだって私に怪我をさせたくてしたわけではありませんから。それより、続きをお話しますね」
フロイドが心配してくれていたのは分かっていた。
だからこそこの拒絶するような反応は申し訳ないし気まずくて、シェラはフロイドから目を逸らしながら続きを話し始めた。
シェラとグリムがスカラビアで起こっていることの一切をオクタヴィネルの3人に話すと、アズールはこう言い出した。
「寮長の圧政に副寮長である彼が困っている。……ふむ」
彼、とはアズールのクラスメイトのジャミルのこと。
アズールは一瞬考えるような素振りを見せた後、胸に手を当てて、シェラからすると胡散臭いことこの上ない笑顔を見せた。
「では、力になってさしあげなくては」
(……はい?)
唐突すぎる展開に、シェラは困惑を隠せない。
それはグリムも同じで、どういう風の吹き回しだと訝しんでいる。
グリムの発言にアズールは、心を入れ替えただの、海の魔女のように慈悲の心で学園に貢献するだのと言っている。
「今、スカラビアが危機に瀕し、クラスメイトが助けを求めている――そんな一大事、無視することは出来ません」