第5章 4. 監督生の溜息
「いい気分になっているところへ恐縮ですが……」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、さも自分の手柄のように喜んでいるグリムへ、アズールが冷ややかに声をかける。
「オンボロ寮のおふたりには、今の戦いで傷ついた机や椅子の修繕費……、および巻き込まれた僕らの労働費を支払っていただきたいのですか?」
〝オンボロ寮のおふたり〟と言いながらも、アズールの目はシェラを見ていた。
(やっぱりそうなりますよね……)
十二分に予測出来た展開だが、シェラは頭痛を覚える。
足元を見てくる守銭奴のアズール。一体いくら請求してくるつもりだろう。
お願いしたら対価はモストロ・ラウンジでの労働にしてくれないだろうか。
〝タコ殴りにされそうだったところを救ってあげたのだから安いもの〟というアズールの主張に、スカラビアの揉め事に巻き込まれて酷い目に遭ったばかりなのに、この学園にはロクな奴がいないとグリムがぼやく。
「なんですって?スカラビアの揉め事、とは?」
グリムのぼやきにアズールが反応した。
「話せば長くなるんですが……」
情に訴えるのは通用しないだろうと思いつつ、シェラはホリデー初日から今に至るまでに起こったことを話し始めた。
早朝から始まるオアシスまで10kmの行進の話と、夜まで課せられた特訓の話までしたところで、ジェイドが口を開いた。
「シェラさんは何故そんなに傷だらけのボロボロなんです?」
ジェイドの視線は、シェラのむき出しの腕についた、まだ新しい裂傷へ注がれていた。
「ああこれは、防衛魔法の特訓で受けた傷です」
乾いた傷を庇いながらシェラは答える。
「えぇ?小エビちゃん魔法使えないのに一緒に特訓受けたの?流石に危なくね?下手すると怪我どころじゃ済まねーよ?」
信じられない、とフロイドは目を白黒させている。
フロイドに目の前でユニーク魔法を使われたことはあるが、直接攻撃魔法を向けられたことはない。
攻撃魔法から身を守る術を持たない者に、魔法を向けることがどれだけ危険であるかの分別はあるらしい。
「普段の防衛魔法の授業は見学させてもらってるんですけど、理不尽な居残りと特訓で不満が爆発寸前の彼等の手前、私だけ見学というのは許されないでしょう」
事実のみを淡々と話す。
しかし、シェラが特訓を受けた理由はもうひとつあった。