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泡沫は海に還す【twst】

第5章 4. 監督生の溜息


すると、痺れを切らしたスカラビア寮生が大声で啖呵を切った。

「引き渡さないのであれば、お前達もただでは済まさないぞ!」

耳と頭に響く大声に、既に襤褸同然のシェラは目眩がして、その場に倒れそうになる。
傍にいたフロイドが、ふらついたシェラの肩を抱き寄せ支えたのと、不機嫌そのものの低い声で反応したのは同時だった。

「……はァ?誰に向かって言ってんの?」
喧嘩を売るような発言がフロイドの癇に障ったようだ。
一気にその場の空気が氷点下まで下がる。
見上げたフロイドの顔はいつもの物騒なそれで、思わず背筋が寒くなる。

(喧嘩売る相手、間違えてる……)

シェラが思うに、フロイドは――オクタヴィネルの3人はこの学園内で1番喧嘩を売ってはいけない相手のような気がする。
しかし、スカラビア寮長の圧政で精神的にも肉体的にも追い詰められ、余裕を失っている追っ手の寮生も引けないのだろう。

「モストロ・ラウンジではいかなる揉め事も認めません。ここは紳士の社交場ですから」
今まで中立の立場を取っていたアズールが動いた。
眼鏡の奥で冷気を帯びた瞳が、明確な敵意を持ってスカラビア寮生達を睨む。

「なんだと?邪魔する気か」
「構わん。実力行使あるのみだ!」

殺気立つ追っ手達を前にして、フロイドはシェラを背に庇いつつ、にやりと口角を上げている。
フロイドの隣のジェイドを見上げると、彼もまた同じように牙見せる笑顔を浮かべていた。

ふたり揃って臨戦態勢だ、とシェラは思った。
敵であれば彼らほど恐ろしい存在はそうそういないが、味方であればとても心強い。
立ちはだかる彼らの背中は、とても大きく頼もしく思えた。

「フン。品の無いお客様にはお引き取り願いましょう。ジェイド、フロイド、彼らをつまみ出しておしまいなさい」

そしてそれは、想像通り早々に雌雄を決した。

アズールの命令に、ジェイドとフロイドは更に笑みを深くして返事をしたかと思うと、瞬く間にスカラビア寮生を蹴散らしてしまった。

バタバタと足早に撤退していく追っ手達を見ながら、シェラは僅かに安堵の表情を浮かべる。

(とりあえず、助かった……)

牢獄へ逆戻りという展開は、なんとか阻止出来た。
グリムは去っていく彼らの背に向かって、自分がやっつけたかのように大口を叩きながら喜んでいた。
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