第5章 4. 監督生の溜息
フロイドが地面めがけて最大速度で真っ逆さまに飛んだ、あの飛行術の時間の再来のように思えた。
今回も安全バーの無いジェットコースターに乗ったような気分だった。
(ここは……?)
シェラが痛みに呻きながら考えていると、おもむろに明かりがついた。
「……おや、こんな深夜にどんなお客様がいらっしゃったのかと思えば」
「食べ物盗みに来た泥棒かと思って絞めにきたのに……、小エビちゃんとアザラシちゃんかぁ」
やたら背の高い2人組の男達が、床に転がっているシェラとグリムを見下ろして言った。
立ち上がろうにも、脚に力が入らなかった。
不時着の衝撃でクラクラする頭を必死に働かせながら、シェラは周囲を見渡す。
視界に入ってきたのは、壁一面のアクアリウムと重厚感溢れるソファ。
テーブルランプの光は、男達のよく似た端正な顔に深い陰影をさしていた。
顔のよく似た双子――目の前にいるのはリーチ兄弟。
そしてここは、モストロ・ラウンジのようだ。
何とかスカラビア寮から脱出は出来たものの、辿り着いた先がオクタヴィネル寮とは、本当に運が悪い。
やっぱり人のものを無断で借りたバチが当たったのだとシェラは心の底から思った。
隣でグリムが牢獄から脱出に成功したと飛び跳ねて喜んでいる。
猫のような身のこなしで上手く着地したのだろうか、どこも痛くなさそうだ。
ついでに絨毯も機嫌を直したのか、ぴょんぴょんと跳ねている。
この状況で喜んでいられる心臓の強さが羨ましい。
一方、ジェイドは〝牢獄〟という単語に首を傾げているし、フロイドは魔法の絨毯に興味を持ったらしく、ヒラメと言いながら指先でつついている。
説明しないといけないことが渋滞しているが、未だに頭がクラクラして思考が纏まらない。
身体があちこち痛い。頭痛も酷い。
思考を放棄しようとしている頭に喝を入れ、どう説明しようか必死に考える。
あまりに悲惨なシェラの状態を見かねたジェイドが手を貸そうとしたその時。
騒がしい足音と共にシェラ達をドブネズミと罵倒していたスカラビア寮生が駆け込んできた。
「もう逃げられないぞ、盗人どもめ!」
「大人しくお縄につけ!」
(最悪だ……)
正直、こんな所まで追いかけてくるとは思わなかった。
脱走者は絶対に許さないという恨みにも似た敵意が伝わってくる。