第5章 4. 監督生の溜息
静かにするよう注意しようとしたら、スマホで辺りを照らすよう頼まれた。
確認もせず適当に目についた部屋に身を隠しているが、そういえばここはなんの部屋なのだろう。
言われるがままスマホのライトをつけると、目が眩むような財宝と、グリムにじゃれる魔法の絨毯が現れた。
(まぶし……っ)
ここはカリムの物置もとい宝物庫だったようだ。
相変わらず全く施錠されておらず不用心極まりない。
ジャミルの気苦労を思うと、少し同情してしまう。
絨毯は先日シェラ達を乗せたことを覚えていたようで、じゃれる子犬のごとくグリムにふさを擦り付けている。
(カリム先輩の魔法の絨毯……)
極限状態のシェラの頭に邪な考えが舞い降りる。
ここから脱出したいという思考に支配されている今、普段のシェラだったらまず選ばないであろう選択肢に手が伸びる。
「やい、絨毯!オマエを外に出してやる。だからオレ様達を寮の外へ連れていくんだゾ!」
グリムもシェラと同じことを考えたようで、寮の外へ脱出するよう交渉を持ちかけた。
ぴょんぴょんと跳ねる絨毯。これは快諾と捉えていいだろう。
「よし、シェラ!絨毯に乗り込むんだゾ!」
猫らしい身軽な動きで絨毯に乗るグリムに倣い、シェラも助走なしで絨毯に飛び乗る。
カリムには悪いが、少しの間絨毯をお借りする。
どうやって返すかは、脱出した後に考えよう。
「スカラビアにオサラバだ!」
グリムの弾んだ声に同調して絨毯が嬉しそうに波打つ。
やっと、この監獄から脱出することが出来そうだ。
◇ ◇ ◇
人のもの――しかも国宝級の代物を、返すあても無く勝手に借りたバチが当たったのだろう。
魔法の絨毯に乗って脱出を試みたのだが、現実はそう甘くはなかった。
一旦はスカラビアから脱出出来る目処が立ったが、シェラもグリムも空飛ぶ絨毯の操縦の仕方なんて知るわけが無い。
グリムがカリムの見よう見まねで操縦したら、絨毯も驚いたのか急旋回を始めたかと思えば、猛スピードでスカラビア寮内を飛び回り、鏡舎へ繋がる鏡へ突っ込んだ。
しかもそこで止まることなく、スカラビアの鏡の向かいの位置にある別の鏡へ向かった。
そして、そのまま突っ込んだ鏡の先に不時着したらしい。
言葉通り、死ぬかと思った。