第5章 4. 監督生の溜息
呼ばれて振り返ると、グリムが誇らしげに穴の前で瞳を輝かせていた。
「見ろ。ついに床に穴を開けることが出来たんだゾ!」
掘り始めて2日で、外に通ずる穴が開けられるとは思わなかった。
時間と根気との勝負に、ここから出たいという執念で勝利した。
しかし、穴が完成したといっても、それはグリムの頭が通るくらいの狭いもの。
現にグリムも、『そんなにデカくはあけられなかった』と言っている。
(これ、私通れるかな……)
シェラは出来上がった穴を見つめながら、その直径と自分の肩幅を照らし合わせる。
肩を限界まで縮こまらせれば通れるかもしれないか、少し無理がありそうだ。
シェラがそんな不安を抱いているとは露知らず、グリムは胸を張って〝頭が通れば大体の穴は通れる〟という、いかにも動物らしい理論をかましてくる。
思わずシェラは間髪入れず冷静に、『肩が通ればの間違いでは』と言ってしまった。
グリムが先に出てシェラを引っ張ってくれるらしく、一足先に穴へするりと潜って行った。
その間にシェラはここへ来た時に着ていた制服をなるべくコンパクトに畳んでおく。
先に脱出したグリムに手早く制服と靴を渡し、シェラも意を決して穴へ潜る。
潜った時に、人生で初めて思った。痩せ型体系で本当に良かったと。
絞り出されるパスタの気持ちがよくよく分かった。
外から施錠された、部屋という名の牢獄から脱出出来たシェラとグリムは、顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
鏡を通ってスカラビアを出るまでは安心出来ないが、ひとまず第一関門をクリア出来た。
「さ、今のうちにオンボロ寮に戻るんだゾ」
廊下は声が響く。
部屋から脱出したことを寮生達に気づかれないように、グリムは声を潜めて言いながらシェラに制服一式を渡した。
「音を立てないように……」
グリムが小声でシェラに念を押そうとした時。
ヒソヒソ声をかき消す〝地響きのような音〟が、グリムの腹から鳴った。
どうやらグリムの腹の虫は、スカラビアの味方だったようだ。
シェラとグリムの顔がさーっと青ざめる。
廊下のずっと向こうからスカラビア寮生達の声と、こちらへ向かってくる騒がしい足音が聞こえた。
(まずいな……)
「お前達、そこでなにをしている!」