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泡沫は海に還す【twst】

第5章 4. 監督生の溜息


刺すような痛みに、シェラは僅かに顔を顰める。
白い紙布にじわりと赤が滲む。
その赤を見て、シェラは赤く汚れた咬魚の口元を思い出した。
終業式後の図書館での出来事。あれは一体何のつもりだったのだろう。

ふたりとも、どうかしていた。
煽りに乗ったフロイドもフロイドだが、煽った末に受け入れたシェラもシェラだった。
いくらでも拒絶することは出来たはずなのに、何故か明確な拒絶の言葉は頭に無かった。

悪ふざけの延長のキスだったはずなのに、フロイドの舌と唇が動く度に気持ちが良さに脳内が支配され、夢中で唇を重ねてしまった。
合間に見たフロイドも、酔ったように僅かに頬を紅潮させていながらも、瞳は雄の興奮を隠すことなく官能的に燃えていた。

しかし、ふたり揃って莫迦なことをしでかしても、関係は何も変わらなかった。
翌日鏡の間で会った時のフロイドはいつも通り飄々としていたからだ。

それでよかったのだとシェラは思う。
それくらいドライな方が、後に地獄を見ないで済む。
それなのに、フロイドの唇の柔らかさと吐息の熱さが頭から離れない。

手遅れにならないように、あの熱を無かったことにするかのように、手の甲でシェラは唇を拭った。
しかし硬い骨の感触は、シェラの上で溶けた唇の柔らかさを鮮やかに思い出させるだけだった。
その手を握りしめたシェラの黒真珠の瞳が陰る。
心をこの世界に置いては帰れない。


フロイドのことを考えていると、ふとオクタヴィネルの3人もホリデー期間中は学園に残っていることを思い出した。
いっそ3人に助けを求めることも頭をよぎったが、すぐさま首を左右に大きく振ってその考えを打ち消す。
助けてくれそうではあるものの、後でどんな対価を要求されるかわかったものではない。
オクタヴィネルの悪徳3人組という囁きは今も健在だ。
それだけは絶対にやめておこうとシェラは思った。


シェラは手元に目を落とす。
どうやら止血が済んだようで、手のひらには皮が剥けた痛々しい肉刺の成れの果てがあった。
まだらに赤く染まる白い紙布を見て、シェラはふと思った。

(金魚みたいだな)

そう思った瞬間、シェラの顔に訝しげな表情が浮かんで出た。

(……?)

どこかで見たことがあるようだった。
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