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泡沫は海に還す【twst】

第5章 4. 監督生の溜息


果てしなく広がる星の海を知ってしまったから、余計に今の環境が牢獄のように思える。

さすがにこの時間になると、見回りもしないらしい。
武術に長けるシェラは、扉や窓を蹴破って脱出することも少しは考えたが、流石に非現実的過ぎて諦めた。
この高さだと窓から逃げるのは命の危険が伴うし、扉を壊すにしても蹴破る音で脱獄がばれることは想像に容易い。
時間と根気の勝負ではあるが、ここは地道に床を掘って部屋の外に通ずる穴を開ける方が賢明だった。


ベッドではグリムがすやすやと眠っている。
交代で穴を掘っているのだが、シェラは何も言わずにグリムを長く寝かせてあげていた。
魔法を使うには、魔力と一緒に気力を消耗する。
ブロッドは魔法石が肩代わりしてくれても、魔力や気力の消耗までは肩代わりしてくれない。
そしてそれらを回復するには、休養が1番だった。

魔法が使えないシェラを守るために、防衛魔法を放ち続けたグリムは既に疲労困憊だ。
明日もきっとグリムの防衛魔法の世話になる。ここは少しでも長く休ませておいてあげたかった。

眠るグリムの顎を撫でると、グリムは目を開けずにゴロゴロと喉を鳴らした。
ふっ、とシェラは眉を下げて表情を柔らかくする。

(グリム、お疲れ様)

手を焼くことも多いが、それでもグリムは相棒なんだとシェラは改めて思った。

気を引き締めて、スプーンを握り直す。
床を掘り続けていた手には肉刺が出来ていて、何もしていなくてもずきずきと痛む。
肉刺を見て見ぬふりをしながら、シェラは再びスプーンを床に突き刺す。

(いっ!……た……)

カラン、と乾いた音を立ててスプーンが床に転がる。
突如鋭い痛みが走った手のひらを見ると、肉刺が潰れて真っ赤な血が溢れていた。
それを忌々しげに見ると、シェラは溜息をついた。

(少し休憩しよう)

とりあえず止血出来るものはないか、シェラは部屋の中を見渡す。
月明かりのみが頼りの薄暗い部屋の中で、豪奢なケースに入ったティッシュを見つけた。
カリムの意向なのか、それとも元々そうなのかは分からないが、スカラビアは調度品がどれも華やかで美しい。
ティッシュの入れ物ひとつとっても、薄暗い中でもその存在がすぐに分かるくらいには煌びやかだった。

紙布を数枚取ると、潰れた肉刺へ押し当てる。
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