第5章 4. 監督生の溜息
こんなに美味しい食事を毎食たらふく食べていたら、丸々と肥えそうだと思ったが、特訓が厳しすぎてそんな心配は不要だった。
むしろ解放される頃には更に痩せているかもしれない。
今朝もオアシスに向けて10kmの行進に付き合わされ、午後も容赦なく防衛魔法の特訓を強いられた。
魔法が使えないシェラは、普段防衛魔法の授業は見学をしているのだが、既に不満が爆発寸前のスカラビア寮生達はそれを許さなかった。
危険なことは承知の上、グリムを肩に乗せた状態でシェラも他の寮生と同じように特訓を受けた。
グリムの防衛魔法が破られれば、シェラは生身で魔法を受けることになる。
グリムが頑張って防衛魔法を張ってくれてはいるものの、自分だけでなくシェラのことも守るとなるとグリム1匹の魔力では限界があった。
一応寮生達も、致命傷にはならない程度に手心を加えてくれてはいるが、それでも魔法は易々とシェラの身体に傷をつける。
特訓が終われば謝罪と共に治癒魔法をかけてくれるのだが、特訓で既に底をつきかけている魔力では、浅い傷は治せてもある程度深い傷は全快とまではいかない。
スカラビアの暑さと動きやすさを考慮して用意してくれた寮服が仇となって、強い日差しはシェラの肌を焼き、魔法は剥き出しの腕に傷をつけた。
スカラビアの気候は砂漠地帯のそれで、日中は真夏のように暑いが、夜になると気温がぐっと下がる。
慣れない暑さの中での特訓と1日の寒暖差。
体力には自信があったが、それでも身体がついてこず頭痛が酷い。
先にこちらの身が持たなくなることは明白。既に満身創痍なのに、あと何日これを繰り返さないといけないのだろう。
とにかく早くここから逃げ出さなければ、という気持ちでシェラは必死にスプーンで床を掘る。
もうとっくに夜は更けていた。
シェラは一旦床を掘る手を休め、窓の外を見る。
窓から覗く青白い月の光は、優しく癒すようにシェラの肌を照らしながらも、早く外へ出るように唆しているようだった。
カリムの誘いで魔法の絨毯に乗せてもらった時に見たスカラビアの夜空は、まるで夢でも見ているようだった。
流れる雲は美しく、藍の大空の中で宝石箱をひっくり返したような、大小さまざまのダイヤモンドを散りばめた星空は、遥か彼方まで広がる星の海だった。