第5章 4. 監督生の溜息
ごりごりとシェラはスプーンで床を掘りながら、睡魔と戦っていた。
日焼けと裂傷で痛む腕をさすりつつ、シェラは顔を顰める。
誘われるがまま、スカラビアに食事をご馳走になりに来ただけなのに、何故こんなことになっているのだろう。
身寄りのないシェラとグリムは、このホリデー期間中は学園に残って過ごすことになっていた。
〝重要任務〟に行くというのに、びっくりするほど似合っていないアロハシャツを着ていたクロウリーと交渉の末、休暇中の食事の保証と引き換えに、学園の火の番を任された。
初めは、火の番の任務で向かった大食堂でたまたま会ったスカラビア副寮長のジャミル・バイパーに誘われ、スカラビア寮に食事をご馳走になりに来ただけだった。
それなのに、シェラもグリムも、気づいたらスカラビアのホリデー居残り合宿に強制参加になってしまった。
オンボロ寮へ逃げ帰ろうにも、昼間は人目が多すぎて脱走は不可能だし、夜は夜で部屋を施錠されている。さながら牢獄だ。
おまけにクロウリーには連絡がつかないときた。
あのアロハシャツは間違いなく〝重要任務〟ではなく、バカンスだ。
現に留守電のメッセージで〝バカンス〟だと言っていた。
この期間はクロウリーにとっても休暇であるから、バカンスを楽しんでようが構わないと思っていた。
だが、この非常事態に連絡がつかないとなるとまた話が変わってくる。
ジャミルや寮生の話を聞くに、どうやらこの居残り合宿は、寮長のカリム・アルアジームが言い出したことらしい。
カリムは最近スカラビア寮の成績が振るわなかったことから、二重人格並に情緒不安定だという。
シェラはカリムについて、人の話を聞かない面はあるが明るく朗らかな人柄で、この学園には珍しいタイプの人間だと感じた。
しかし、ひとたびスイッチが入るとオーバーブロッド前のリドルといいとこ勝負なくらいの暴君になり、圧政を敷くような人格に切り替わる。
本当に単なる情緒不安定なのだろうか。
なんだかまたトラブルに巻き込まれた気がしてならない。
スカラビアでの衣食住について、住の点で見れば牢獄であるが、衣食は保証されていた。
着替えの用意が無いシェラに、ジャミルが気を利かせてくれて余剰のスカラビア寮服を渡してくれたし、毎度の食事は文句のつけようがない位に美味しい。