第4章 3. ヴィランのルージュ
「黙って聞いてりゃ言ってくれんじゃん」
フロイドは蠱惑的な悪党の笑顔を浮かべながら、シェラのことを下から舐めるように見つめる。
衝突し、睨み合う視線が火花を放つ。
「よかったぁ。小エビちゃんが、すぐ消えちゃうような、つまんねー雑魚じゃなくて」
本来の調子を取り戻したフロイドは、聞く者全てを蕩けさせるような甘い声で、悪魔のような囁きを口にした。
「いいねぇ……、そのオレのこと見下すような目。たまんねぇなぁ……ゾクゾクするわ。ねぇ、小エビちゃん、そんなに顔近づけてきてさぁ、その生意気なくち、ちゅーして塞いでやろっかぁ?」
「そんなにあなたは唇に噛みつかれたいんですか」
視線で射殺さんとする、力強い黒真珠の瞳でフロイドを睨めつける。
歪んだシェラの口元から白い犬歯が覗く。
それに対抗するようにして、フロイドも鋭い歯を見せながらにやりと唇の端をつり上げる。
「ふぅん。いい度胸してんじゃん。やってみなよ、出来るならね」
売り言葉に買い言葉。
フロイドはシェラを片手で抱き上げたまま、大股で1歩本棚へ寄る。
シェラの背中が逃げ場を失うと、頬に触れるフロイドの手が顎へ滑り、そのまま掴まれ固定される。
太腿に添わせられた、シェラを支えるフロイドの手に更に力がこめられる。
(本気だ)
思わずひゅっと息を飲むと、それを見逃さなかったフロイドの唇が、シェラの唇に重ねられた。
バサッ、と大きな音を立ててシェラの太腿の上に乗せられていた図鑑が床へ落ちた。
本気でしてくるとは思わなかった。
だが、煽ったのはシェラの方だ。
フロイドはシェラが逃げないと分かると、顎を掴んでいた手をくるりと翻し、指を絡めとってシェラの手を本棚に縫いつけた。
まるでひとつになるように、フロイドの唇はシェラの唇の上で柔らかく溶けた。
食むような動きで唇の感触を味わうと、ちゅっ、ちゅと短くリップ音が漏れる。
やがて唇で唇をこじ開けられると、フロイドの長い舌がシェラの口腔内に侵入してくる。
初めは、探りを入れるようにしてフロイドの舌はシェラの舌をそっとつついた。
シェラも同じようにフロイドの舌をつつくと、次の瞬間大胆に絡め取られる。