第4章 3. ヴィランのルージュ
隣に立っていたフロイドが急に屈んだと思うと、シェラの尻から太腿へ腕を回し、ひょいと軽々片手で抱き上げた。
まさか抱き上げられるとは思っていなかったシェラは、突然のことに驚いて、上体のバランスをとる為に咄嗟にフロイドの肩に抱きつくように手を回した。
「急に危ないじゃないですか!」
「ごめーん。でも、これで届くでしょ?」
『どこ触ってるんですか』という非難が出かかったが、それを飲み込んだ。
柔らかさの欠片もない貧相な尻や脚を触ったところで何とも思わないだろう。
「てか小エビちゃん軽すぎじゃね?ちゃんとご飯食べてんの?」
「この前も言いましたけど、ちゃんと食べてます。フロイド先輩が力持ちなだけでは?」
ただ痩せ型体型というだけで特別少食というわけでは無い。
比較対象が身近にいないにしろ、同世代の女子と同じくらいの量は食べているはず。
シェラが軽いのは事実であるが、フロイドが力持ちだということもまた事実。
いくらシェラが細身とはいえ、片手で難なく抱き上げるのはすごい。
そういえば、先日の飛行術の授業でシェラのことを拉致した時も片手だった。
いつまでも抱き上げられている状況が続くのもどうかと思ったシェラは、目当ての図鑑へ手を伸ばす。
「この前ねぇ、金魚ちゃんに同じことしたら顔真っ赤にして怒ってたぁ。面白かったなぁ、あはっ」
「何してるんですか……」
図鑑を手に取りながらシェラは呆れた表情を浮かべる。
フロイドは揶揄いのつもりでリドルを抱き上げたのだろうが、あの気高いリドルが高い所の本に手が届かないが為にこんなことをされるだなんて怒って当然だ。
フロイドの1番の被害者はリドルな気がして、気の毒に思った。
「取れたんで降ろしてください」
「やだ」
(なぜ?)
一体何がしたいんだ、とシェラは非難を込めてフロイドを軽く睨む。
自力で降りようと脚をばたつかせてみたが、太腿に添えられた手ががっちりとシェラを支えていて、膝から下がブラブラと揺れただけだった。
「じゃあこのまま席まで運んでください」
仕方なしにシェラは妥協案を提案する。
席まで行けばどうせ降ろすことになる。
少しの間でもフロイドに抱き上げられたまま移動するのだ。図書館に誰もいなくて良かった。
「んー……」