第4章 3. ヴィランのルージュ
◇ ◇ ◇
半ば強引に引き摺られるようにして、シェラはフロイドと共に図書館へ来た。
終業式の後、ウィンターホリデー直前に図書館を利用しよう考える生徒などいるだろうか。当然のことながら誰もいない。
ゴーストさえも姿をくらませた、しん、と静まり返った空間。
生物や植物の図鑑や百科事典が蔵書されている本棚の前で、ふたりは海の生物が載っていそうな本を探す。
シェラは本棚の低い段を中心に探していた。
(この状況は一体なに……?)
シェラはいつも通りの乏しい表情で、今の状況に内心毒づく。
別にウツボの生態に詳しくなりたいわけでは無いが、下手に断って機嫌が悪くなられる方が面倒――大変だ。
そのうち飽きたとか言い出して解散になることを期待し、目当ての図鑑を探しているのだが、今のところそれらしきものは見つかっていない。
ふと目線を上に移した時に〝海洋生物図録〟と背表紙に書かれた分厚い図鑑が目に飛び込んだ。
(あ、あれは……)
しかしそれは、シェラの背では届かなさそうな高さの場所にある。
不本意ながらフロイドに取ってもらう必要がありそうだ。
つい最近も似たような状況を経験したような気がして、シェラは少しだけ眉を顰める。
不意打ちでフロイドに耳元で囁かれたりしないように、耳に気を配りつつシェラは見つけた本を指さして取ってもらうようにお願いする。
「フロイド先輩、あれ取っていただけませんか?」
「んー?やだ」
「は?」
本を取る気分では無いと言うのか。本1冊取るのに気分なんて関係あるのか。
やだ、という短いフロイドの拒否の言葉に、シェラは一瞬苛立ちそうになる。
だが、フロイドの表情を見た途端その気持ちもどこかへ行った。
これは、シェラを揶揄っている時の表情だ。
にやにやと笑いながらフロイドはシェラがどうするのかを窺っている。
「私に本棚をよじ登れと」
やれやれとシェラは肩を竦めると、本棚に足をかけられる余地があるか確認しようと目線を足元に下ろす。
どうせ申し訳程度の高さしかない足場の台に乗っても届かないだろう。
幸い木登りは苦手ではない。足元が安定している分木登りよりも簡単だろうと、シェラが右足を棚にかけようとした時。
「う……わっ!!」