第4章 3. ヴィランのルージュ
人間の舌にしては長すぎる。
爬虫類は言い過ぎにしても、それに近いものがある。
魔法薬で人間の姿に変身していても、所々ウツボらしさが残っているなとシェラは思った。
実際ウツボの舌が長いのかどうかは知らないが。
「んー?小エビちゃんどぉしたの?オレの顔じっと見てさぁ」
恥ずかしいじゃん、と思ってもないようなことを言いながら、フロイドはシェラを見つめ返す。
「ああ、いえ、舌長いなって思って」
心にも思ってなさそうな台詞は無視して、シェラは抱いた感想をフロイドへ伝える。
「舌ぁ?」
そう言いながらフロイドは舌をべろんと出してシェラに見せた。
シェラはこっそり自分の舌と比べながら、やはり長いなと思った。
そして率直な疑問を投げかける。
「ウツボってみんな舌長いんですか?」
「ウツボに舌は無いよぉ」
「そうなんですか?あれ、でもフロイド先輩はウツボでも人魚だから舌はあるのか……」
ウツボの舌が長いのではなく、フロイド個人の舌が長いらしい。
熱いものを食べる時に苦労しそうだな、なんてシェラはぼんやりと考える。
「なになに?小エビちゃんウツボについて興味あるの?」
舌をしまったフロイドは、ぬっと上からシェラの顔を覗き込むようにして訊いた。
とても嬉しそうな顔をしている。
「いえ、そういうわけでは」
「じゃあ今から図書館行こーよ!」
シェラは1歩後退りながら、違います、とやんわり両手で否定の仕草をした。
しかしフロイドはその手を掴み、笑顔で話を進めようとする。
「あの、話聞いてます?」
離してもらおうとシェラは手を引くが、がっちりと手首を掴まれていてびくともしない。
「よーし!いこー!」
しゅっぱーつ!と、上機嫌でシェラの手を引っ張りながら歩き出した。
こうなったらシェラが何を言っても、フロイドは聞かないだろう。
「だから私の話を……って、引っ張らないでください、わかりましたから」
ぐん、と手を引っ張られてバランスを崩しそうになったシェラは、苦言を呈しつつ仕方なくフロイドについて行くことにした。