第4章 3. ヴィランのルージュ
表向きは後ろに乗せてくれて綺麗な景色を見せてくれたことのお礼。
しかし本当は、シェラの心中を察して何も言わずに背中を貸してくれたことと、それを黙っていてくれたことのお礼。
購買で棒つきのウツボ型キャンディを目にした時に、真っ先に思い出したのはフロイドのこと。
どんな反応を見せてくれるのか、本当はサプライズとして口から出して見た時に気づいてほしかったのだが、喜んでくれたのならまあいいだろう。
すっかり機嫌が良くなったフロイドは、嬉しそうににこにこと笑っていた。
「何味ですか?」
薄い紫色をしているからグレープか何かだとは思うが、購買では変わったものも売っているから違う可能性もある。
実際シェラも、ストロベリー味かと思って買った真っ赤なキャンディが、食べてみたらブルーベリー味で驚いたことがある。
「ん?気になるの?食べさせてあげよっかぁ?」
そう言って、すっかりいつもの調子を取り戻したフロイドは上から顔を覗き込むようにして見つめながら、シェラの唇にキャンディを近づけた。
「いえ、口紅がつきそうなので大丈夫です」
硬いキャンディを齧ろうにも、フロイドほど歯が鋭くないから難しそうだ。
それに口紅がべっとりついたキャンディなんて食べたくないだろうと思い、シェラは遠慮する。
「このへん少しぺろっと舐めるくらいだったら口紅つかないよぉ」
「そうですか?」
じゃあ、とシェラはキャンディの棒をつまむフロイドの手に、ごく自然に自分の手を添えると、薄く口を開いた。
濡れたような艶をたたえる、熟れた果実の赤紫に染まる唇から白い歯が顔を出すと、初々しいピンクの舌先がチロリとキャンディを舐め上げた。
フロイドはその様子をじっと見ていた。
妖艶なカシスルージュと、初心なピンクの舌。
成熟した色香と無垢な処女性の対比に、フロイドの喉仏が動いていたことにシェラは気づかない。
「甘……くない。なんですかこれ、ペパーミント?」
色からくる先入観と実際に口にした味が違い、脳が混乱している。
微かに甘味はあるものの、鼻へ抜けるようなすっきりとした香りの方が強い。
「オレ、ペパーミントキャンディ好きー」
フロイドもシェラと同じように舌先でキャンディをぺろりと舐めた。
その様子を見ていたシェラはぎょっとする。
(舌なっが)