第1章 0.タナトスの手
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雑用係として働きながら、元の世界に帰る方法を探す。
2日前はそのような話だった。話だった、はず。なのに。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
事の経緯を思い出すだけで頭が痛い。
メインストリートの掃除中に現れたエース・トラッポラという新入生に煽られたグリムがグレートセブンの石像を焦がすという問題を早々に起こした。
罰として窓拭き掃除を命じられたものの逃げ出したエースを捕まえようと通りすがりの新入生デュース・スペードを巻き込んで追いかけ回していると、事が大きくなってしまい今度は大食堂のシャンデリアの魔法石を壊すという大問題を起こした。
その結果、監督不行届と半ば巻き込み事故のような形で鉱山へ魔法石を探しに行く羽目になった。
鉱山についても協調性皆無の2人と1匹。
得体の知れないモンスターに襲撃されて万事休すの状況に陥ってもなお協力なんてするもんかと揉めていた。
このままでは埒が明かない上にいい加減腹が立った私は、エースとデュースとグリムの2人と1匹を叱りつけ協力させ、無事炭鉱から魔法石を持って帰ってくることが出来た。
ここまでは良かった。問題なのはここからだ。
その話を学園長にすると急に泣き始め、人のことを調教師だの猛獣使いだの平々凡々だのと褒めているのか貶しているのか分からない評価をつけた挙句、彼はこう言った。
『貴方にナイトレイブンカレッジの生徒として学園に通う資格を与えます!』
学園長の一言で、私は全く魔法が使えないのにグリムの監督生としてここに通うことになってしまった。
男子校に女子が通うなんて、とそれとなく反論してみたものの、〝特別です、私優しいので〟と言われてしまえばそれ以上何も言えない。
それに、一文無しで身寄りが無い何より魔法が使えない異世界人の私をこの学園に置いてくれるのは学園長の温情以外の何物でもないのは事実。
この世界に来る前の記憶がほとんど無い上に帰る術も当面見つかりそうにない気がする。そんな状態で学園から放り出されたら生きていけるわけがない。
どうしても学園に通いたいと息巻いていたグリムとふたりでひとりの生徒だと言う。
私がここで断ったらどれだけグリムが落胆するか。
隣で飛び跳ねながら喜ぶグリムを見ていたら、断るという選択肢は選ぶことが出来ない。
大きく息を吸って、吐いた。
腹は決まった。