第4章 3. ヴィランのルージュ
兄弟に対しても容赦の無い毒舌を発揮する。
フロイドの機嫌が傾いているというのに、全く意に介した様子がない。
一方アズールは、〝茹でたタコ〟という喩えになんとも言えない表情を浮かべながら眼鏡を押さえていた。
「ジェイドもうざい!」
思ったことは素直に口に出すフロイドだが、いつもと違うシェラを前にしてそれが出来なかった。
フロイドも、ジェイドやアズールが言うように式典メイクをしたシェラは綺麗だと思った。
けれどいざそれを伝えようとしても、喉につっかえたように言葉が出てこなかった。
それどころか、じっと見つめていると、夢を見ているような気分になった。
何故だか今目の前にいるシェラがいつか泡となって消えてしまいそうで、無性に寂しくて悲しくて堪らなくなった。
そう思う自分は、別の自分のような気がしてよく分からない気分になった。
「ねぇジェイド、アズール」
ジェイドに悪態をつくような不機嫌さから一転、いつも通りの口振りでフロイドはふたりに訊いた。
「小エビちゃんっていつか泡になって消えちゃうと思う?」
深い意味はなかった。
ただ、シェラを見た時に自分はそう思ってしまったから、ふたりはどう思うのか聞いておきたいだけだった。
急なフロイドの問いかけに、ジェイドとアズールは顔を見合わせると神妙な面持ちで答える。
「泡……ですか。泡になるかどうかは分かりませんが、いつかは元の世界に帰っていなくなってしまうでしょうね」
「シェラさんは元々この世界の人間ではありませんから」
「……、そうだよね。小エビちゃんは〝消える〟んじゃなくて、〝帰る〟んだもんね」
淡々とした口調で、そして確認するようにフロイドは言った。
「そうですよ。シェラさんはいつかは帰っていなくなってしまう方です。だから思ったことはきちんと言わないと。後悔することになりますよ」
「そう、だよね……」
〝後悔〟
この言葉の響きが、フロイドの心にさざなみのような波紋を広げていった。
◇ ◇ ◇
つつがなく終業式も終わり、生徒は寮へ戻るべく鏡舎へ向かっていた。
今日の予定は終業式のみ。
明日の午前に最終ホームルームがあり、それが終われば午後からは生徒たちが待ちに待ったウィンターホリデーだった。