第4章 3. ヴィランのルージュ
傷つきたくないし、傷つけたくない。
ふたりの結末には別れが待っていることが分かっているのに、刹那の恋に溺れるような悪党にはなれない。
「んー……、ごめんだけどやっぱシェラが誰かのこと好きになってる姿は想像出来ないや」
「そうでしょう?」
エースは普段のシェラの様子を知っている。
感情がほとんど表情に表れないシェラが誰かに恋をしている姿を頑張って想像しようとしたようだが、どうやら浮かばなかったらしい。
そんなエースの様子にシェラはごくうっすらと口元を緩めると、静かに言った。
「エースの〝応援する〟っていうのは気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう」
元の世界に帰ったら、と考えた時に1番最初に浮かんだのはエースとデュースとグリムの姿。
エースも、そしてこの手の話になると初心な反応を見せるデュースも、シェラにとっては性別関係無い大切な友達だった。
元の世界に帰ることについては、未だに手がかりすらない。
別離があるとしてもまだまだ先のことだろう。
それでも、ほんの少しだけ考えた遠い先の別離に、シェラの胸がちくりと痛んだ。
これ以上大切な人が増えていったら、別れのつらさに耐えられる気がしなかった。
◇ ◇ ◇
大股で歩くフロイドに追いついたジェイドとアズールは、シェラについて話していた。
「それにしても驚きましたね。シェラさんがメイクひとつであんなに変身するとは」
「ええ。無口で無愛想なのは変わりませんが……」
シェラがこの場にいないのをいいことに、言いたい放題のジェイド。
しかしジェイドが言うようにシェラが無口で無愛想なのはその通りであるから、もしシェラ本人がこの場にいてもそれは認めていただろう。
「それもそれで媚びない雰囲気があって更に魅力的でしたね。ねぇ?フロイド?」
口角を上げて、珍しく鋸状の尖った歯を見せてジェイドは笑いながらフロイドに話を振る。
「別に」
素っ気ない返事をするフロイド。
それを聞くやいなや、込み上げた笑いを抑えながらジェイドは、フロイドの神経を逆撫でするようなことを言った。
「おや、シェラさんに冷たく当たられたことに傷ついてるんですか?あんなに顔を赤くしたところは初めて見ましたよ。まるで茹でたタコのようでした」