第4章 3. ヴィランのルージュ
「おはようございます。ハーツラビュルの皆さん」
先陣を切ったのは、柔和な笑顔を浮かべたジェイド。
笑ってはいるものの、黒く縁どられた涼しげな目元のせいで、普段よりも幾分ミステリアスで更に思考が読めない。
「リドルさん、終業式の準備お疲れ様でした」
慇懃な態度で人の良い笑顔を見せながらアズールはリドルを労う。
黒いアイシャドウはアズールの色素の薄いアクアマリンのような瞳をより澄んで見せ、目元に女性的な美しさを与えていた。
「金魚ちゃんは式典服着るとヒレがついてもっと金魚に見えるねぇ」
フロイドはリドルの服の裾を摘んで持ち上げながらリドルに絡む。
濃く入れられた黒は下がった目尻を強調していて、黙っていれば柔和で可愛らしく見えなくもない。
しかし濃い黒は瞳の金色を際立たせ、より危険な香りを漂わせていた。
式典服を纏ったオクタヴィネルの3人は普段の数倍食えない雰囲気を醸し出していた。
シェラは場の空気と化すように俯いて、彼らが去るのを待つ。
「フロイド、ボクに構うな」
「ええー?金魚ちゃん冷たぁい」
心のこもっていない非難をリドルに向けたフロイドだが、もっと面白いものを見つけたようで、にたぁ、と唇の端を上げた。
トレイの影に隠れるシェラへ大股で歩み寄る。
「小エビちゃんなんでウミガメくんの後ろに隠れてるの?フードなんか被ってさぁ、シャチみたい。あぁでも、シャチほどおっきくないかぁ」
そう言いながらフロイドはシェラのフードを下ろし、顔を覗き込もうとする。
隠れてやり過ごそうと思ったが、フロイドがそれを許すはずがなかった。
フロイドに見つかってしまったシェラは、観念したように溜息をつきながら3人を見上げた。
「おはようございます」
「は……?」
「おや……」
「え……」
シェラの顔を見た瞬間に黙り込む3人。
視線は言わずもがな、シェラの顔に注がれている。
双方に沈黙が訪れる。
(メイクした顔がそんなに珍しいですか……)
表情を変えずに内心そんなことを思う。
未だに誰も何も言わない。
「……人の顔見て黙り込むのはやめていただけませんか」
あまりにも何も言わないから、痺れを切らしたシェラの方から声をかける。
1番最初に言葉を発したのはジェイドだった。