第4章 3. ヴィランのルージュ
「シェラちゃん今日はメイクしてるんだね!うんうん。すごく似合ってるし新鮮でいいねぇ!可愛い!」
「ああ、いつもよりも大人っぽくなったな」
「ありがとうございます」
毒気の無い笑顔でシェラを褒めるケイト。ノリは少し軽めだがお世辞などでは無さそうだ。トレイもそれに同調して頷く。
シェラはふたりの言葉をそのまま素直に受け取り、軽く頭を下げた。
「グリちゃんも式典服着てる!洋服着てる猫って可愛いよねぇ」
「ふなっ!?オレ様は猫じゃねェんだゾ!!」
ケイトはシェラの足元に立つグリムを見て目を輝かせた。
「あれ、トレイ先輩。リドル寮長はご一緒ではないですか?」
しゃがんで顎を撫でようとするケイトの手を一生懸命払い除けようとするグリムを眺めつつ、シェラはトレイに話しかけた。
いつものハーツラビュルのメンバーで、ひとりここにいない人がいる。
「リドルなら終業式の準備に駆り出されてるが……もうすぐくるんじゃないか?」
「ボクがどうかしたかい?」
噂をすれば、というタイミングでリドルはやって来た。
身長はシェラとあまり変わらないのに、式典服に身を包んだ品行方正なリドルはシェラよりずっと大きく大人びて見える。
「いえ、おはようございます」
「リドル寮長、おはようございまーっす」
「おはようございます!ローズハート寮長!」
「ああ、おはよう」
シェラの後に続いてエースとデュースもリドルに挨拶をした。
リドルはデュースから順に顔を見ながら挨拶を返すと、最後にシェラの顔を見つめて感心したように眉を上げ、ふっと表情を柔らかくした。
「おや、シェラ。式典用のメイクは上手くできたようだね。エースからパンダだと聞いて心配していたけれど、その必要は無かったね。監督生としての威厳も感じられる、綺麗だよ」
「リドル寮長にまでそう言っていただけるなんて、恐縮です」
どうやらエースはリドルに〝パンダシェラ〟の話をしていたようだ。
リドルの言葉にシェラは粛々と頭を下げると、横目でエースを半眼で睨めつける。
するとエースは、明後日の方向へ視線を放り投げた。しらを切ろうとしているらしい。
真面目なリドルは褒め方まで真面目だった。