第4章 3. ヴィランのルージュ
瑞々しいカシスを更に更に濃縮したような、内側から滲み出るように発色する深い赤紫は、血に濡れ恍惚とするヴァンパイアの唇のようで、シェラを妖艶なヴィランに染め上げた。
「そうだよ」
シェラが表情を変えずに答える。
ふたりは未だに目を白黒させていた。
「え?シェラ……?え……?」
「……」
デュースに至っては顔を青くしてシェラを見つめていた。
1歩近づくと今度は顔を赤くして後退った。
顔を赤くしたり青くしたりと、忙しそうだ。
「えっと、それはどういう意味の沈黙?」
歯切れの悪いふたりを、シェラはジッと見つめる。
シェラ自身もきちんとメイクした自分の顔を見て驚いたくらいだから驚くのは一向に構わない。だが、変なのかそうじゃないのか、沈黙の意味は教えて欲しい。
「え……、だってシェラ、お前メイクで変わりすぎじゃ……」
「い、いつもの素朴なシェラは一体……」
シェラ以上に、シェラの大変身に驚いているふたり。
クルーウェルに感謝しなければならない。
エースは、『本当にシェラか?』と、とうとう別人かと疑いだすし、デュースは顔を赤くしてしどろもどろしている。
エースの失礼な別人説は置いておいて、どうやらデュースは普段のシェラの顔を〝素朴〟だと思っていたようだ。
「エーデュースちゃん、ダメダメー!そこは素直に〝綺麗〟って褒めなきゃ!」
「ケイト先輩!」
明るく、そして軽々した声がエースとデュースにかけられた。
シェラが顔を上げると、ハーツラビュル寮の先輩であるケイト・ダイヤモンドが間を割るようにしてふたりの肩に腕を回していた。その手には流行のカバーがついたスマホが握られている。
そしてその様子を見守るように、同じくハーツラビュル寮の先輩のトレイ・クローバーも穏やかな笑顔を浮かべて後ろに立っていた。
「シェラちゃん、グリちゃん、おっはよー!」
「シェラ、おはよう」
「ケイト先輩、トレイ先輩、おはようございます」
リドルのオーバーブロッド事件の後も、ケイトとトレイはシェラに目をかけてくれている。
シェラもそれに甘えていて、個人的にはケイトとトレイは仲の良い先輩だと思っている。