第3章 2. 青空の涙
フロイドはシェラの髪から手を離すと、唇を尖らせながら芝居かかった口調で言った。
「すみません。フロイド先輩がバルガス先生を更に怒らせるような発言をしそうだったので、つい勢いで」
「なーんて、うそうそ。ねぇ、さっきは何でオレのこと庇ってくれたのぉ?」
にやにやと笑いながら、茶化すように訊ねてくるフロイド。
目線を合わす為にわざわざ屈むと、シェラの瞳の奥を探る様にじっと見つめる。
「さぁ?私もバルガス先生の怒りを鎮めようと必死でしたから」
シェラはそれを躱すように肩を竦めておどけた口振りで言った。
それを聞くとフロイドは、深く追及せずにただふぅんと言って口角を上げると、校舎に戻ろうとする。
ひとつ言い忘れていたことがあった。
「フロイド先輩」
シェラはフロイドの服の裾をつまんで引き止めた。
フロイドは立ち止まり振り返ると、シェラを上から見る。
「ありがとうございました」
黙って背中を貸してくれたことを思い出しながら、シェラは花の蕾が綻ぶように淡く笑ってお礼を伝えると、手を離した。
ここでもフロイドは、意外とでも言いたげに目をぱちぱちさせている。
そしてその面食らった表情が、ゆっくりと笑顔に溶けていった。
「あは。小エビちゃん可愛いとこあんじゃん。……いーよぉ。オレも楽しかったし。ありがとねぇ」
普段全く見せることのないシェラの柔らかい笑顔に、フロイドも満更でも無いようにギザギザの歯を見せて笑い返した。
「じゃ、小エビちゃんばいばーい」
去り際にフロイドは大きな手でシェラの頭をわしゃわしゃと撫でると、その手をひらひらと振りながら校舎に戻って行った。
「シェラ、なんかお前フロイド先輩と良い感じになってね……?」
「授業前より親密になってる気がするんだゾ……」
シェラとフロイドが話している間、場の空気と化していたエースとグリムが訝しげに呟いた。
「!!そっ、そういえばさっきリーチ先輩がシェラのことを、すっ、すすっ……好き、だって……」
同じく空気と化していたデュースは顔を赤らめながら思い出したように言った。
「それきっと面白いから好きとかそんな感じでしょう?」
顔が赤いデュースとは対照的に、シェラは表情を変えずに少し呆れた口調で返す。