第3章 2. 青空の涙
期待通り、そして想像以上。といったところか。〝健気で生真面目な生徒〟の仮面を外したシェラは、冷めた目をしながらそう思った。
反省した素振りをしつつその場しのぎで筋肉の話題を出してみたのだが、あまりにも効果てきめんでシェラは少し拍子抜けしてしまった。
フロイドの口を押さえていた手を離しながらエース達の方を見ると、エースとグリムは腹を抱えて笑っていたし、デュースは憧憬の眼差しでシェラを見ていた。今度こそデュースに姉御と呼ばれそうだ。
「お前達!今のリンジーの話を聞いていたか!お前達もオレのように逞しい筋肉をつけろ!わっはっは!!」
もう授業を抜け出したことはどうでもいいらしい。
満足そうに笑いながらバルガスは解散の指示を出した。
バルガスが脳筋でよかったと、失礼極まりないことを思いながらシェラは、怒られずに済んだと胸を撫で下ろした。
無事、1年と2年の飛行術の合同授業が終わった。
各々飛行場を後にする中、シェラも戻ろうと校舎の方へ向かっていると、後ろからやってきたエース達に肩を組まれた。
「シェラ!お前やるなぁ!フロイド先輩を物理的に黙らせた上にバルガス先生の怒りを一瞬で鎮めやがって!よっ、猛獣使い!」
「流石、オレ様の子分なんだゾ!」
「シェラがリーチ先輩の口を引っ叩いた時、僕は生きた心地がしなかった……」
エースとグリムが口々にシェラを囃し立てる中、デュースは肝が冷えたとシェラの心配をしていた。
(そうだ。強引に黙らせたこと、謝っておかないと……)
致し方なかったとはいえ、結構強めにいってしまった。
シェラは周囲を見渡し、フロイドの姿を探す。が、その姿は視界に入ってこない。
背が高い分見つけやすそうなフロイドだが、どうも見当たらない。
さっさと戻ってしまったのかと、シェラが探すのを辞めようとした時、ふいに結んでいた髪を引っ張られた。
確認せずとも分かる。こんな声のかけ方をするのはひとりしかいない。
シェラはさして驚くことなく、音もなく後ろに立っていた彼へ、振り向かずに辞めるよう言う。
「フロイド先輩痛いです。髪を引っ張らないでください」
「小エビちゃんだって、さっきオレの口を思いっきり叩くみたいに押さえてきたじゃん。あれちょー痛かったぁ」