第3章 2. 青空の涙
背中にじんわりと広がる温かな湿度に、フロイドは空を仰いだ。
(小エビちゃん、泣いてんだ)
まるで傍観者のように、ぼんやりとフロイドは考えた。
しかし心の中では後悔と罪悪感がゆっくりと渦巻いていた。
こんな形で泣かすつもりは微塵もなかった。
いつも通り揶揄って、お気に入りの景色を見て、一緒に楽しく飛行術の時間を過ごせれば良いと思っていた。
フロイドに対して、にこりともしたことのないシェラが初めて笑いかけてくれた。
シェラの笑顔を見た瞬間、また見たいと思った。たくさん笑って欲しいと思った。
この景色を見せたら、また笑ってくれるんじゃないかと思っていた。
だから急に故郷の話を始めた時には驚いた。
一瞬振り向いた時に見えた、シェラの茫洋とした黒真珠の瞳は、どこか遠くを、フロイドには分からないものを見つめているようで、それでいて鈍い絶望を映していた。
真面目なシェラだから、今まで見た景色の中で1番綺麗だと言ったのは嘘ではないだろう。
だが、本音はひとつとは限らない。
(まぁでも、そりゃそうだよね)
フロイドだって、いきなり異世界に飛ばされて帰る方法が無いとなったら絶望するだろう。
3日も経たずに帰りたくて我慢ならなくなるだろう。
そんな世界で海を見たら、珊瑚の海を思い出してつらくて仕方なくなるだろう。
(寂しいんなら、カニちゃん達にそー言えば良いのに。なんで小エビちゃん我慢なんてしてんの)
誰だってそうだ。不安に思うのは当たり前の感情だ。
だからシェラも寂しいのなら寂しいと言えばいい。
誰も咎めたりしない。我慢する必要なんてないのだ。
遠くから笛の音が聞こえる。
きっとバルガスが集合をかけたのだろう。
早く戻らないと、という気持ちはあったが、フロイドはどうしても戻る気にはなれなかった。
(バルガスなんて、どーでもいいし)
バルガスに叱られそうだが、そんなことはどうでもよかった。
シェラが泣いている。
今まで誰にも弱音を吐かずに気丈に振舞ってきたのだろう。そんなシェラが泣いている。
きっと、泣いている姿なんて見られたくないだろう。だって、強がって本音をひた隠しにしてきていたのだから。
だからシェラの為にも、もう少し、もう少しだけこうしていてあげよう。フロイドはそう思った。