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泡沫は海に還す【twst】

第3章 2. 青空の涙


これ以上この寂しい空気が続くと、フロイドにとっても面倒だろうし、シェラの心の中でぴんと張った糸が切れてしまいそうだった。

「……」
「……」
再びふたりの間に静寂が訪れる。
せっかくフロイドが楽しい時間にしようとしてくれていたのに、その気持ちを無下にしてしまった罪悪感にシェラは俯く。

「疲れるからさぁ、やめよーよ」

しんみりとした空気に似合わない、あっけらかんとした声といつも通りの口調でフロイドは言った。
やはりこんなに重い話はフロイドにとって迷惑であったか。
謝罪の言葉が俯くシェラの喉元まで上がったが、先に口を開いたのはフロイドだった。

「強がり」
「え?」
シェラは顔を上げた。
〝やめよーよ〟の後には〝こんな話〟と続くと思っていたシェラは思わず間の抜けた返事をしてしまう。

「強がってなんか……、」
〝いない〟と主張しようとしたシェラだったが、またもやフロイドに言葉を重ねられる。

「そーいう嘘いいから。だって、さっきから小エビちゃん声震えてるよ?」
見なくてもわかるよ。フロイドは振り向かず、そう言った。

「オレも前向いてるし、こんな高さじゃ誰も分かんないよ」

(ほんとに、この人は……)

気分屋でめちゃくちゃなくせに急に優しくなったり、本当に調子が狂う。

記憶の世界と同じように、シェラの視界がゆっくりと滲んでゆく。
フロイドの言葉の意図を理解したシェラは、引き結んだ唇を少しだけ綻ばせると、背中に顔を押し付けた。

「そうですね。……胸が、苦しいです」
薄く笑いながら、消え入りそうな声でシェラは呟いた。

フロイドの腹に回す手に力が入る。
シェラを柔らかく包み込むように、マリンシトラスがふわりと香り立つ。
思ったよりも広くてしっかりとしたフロイドの背中は、心地よい温かさだった。

フロイドがそういう気分だったと言うのなら、シェラがそうしたのもそういう気分だったと言い張ってもいいだろう。

今は、誰も見ていない。
今は、今だけは、この気分屋の優しさに甘えてもいいだろうか。
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