第3章 2. 青空の涙
「えー。金魚ちゃんひどくね?その言い方だとオレが小エビちゃんのこといじめてるみたいじゃん」
「…………」
心外だ、とムッとするフロイドの後ろでシェラはなんとも言えない表情を浮かべる。
地上めがけて猛スピードで真っ逆さまに飛んだのは誰ですか、とシェラは言いそうになったが思い留まった。
それにしても、フロイドとリドルの間に火花が飛び散っているように見えるのは気のせいか。
「さ、もうお行き。ジェイド、僕達も遅れるとクルーウェル先生に怒られてしまうよ」
フロイドと関わっている時のリドルは、毎回顔を真っ赤にして怒っているイメージがあったが今回は幾分と冷静だ。
錬金術の担当はシェラ達の担任教師のデイヴィス・クルーウェル。よく問題を起こした生徒に対して〝駄犬〟だの〝bad boy〟だのと完全に犬扱いで叱っている。
フロイドに屈するよりも、クルーウェルに叱られる方が嫌なのだろう。
「そうですね。ではフロイド、シェラさん、また」
ジェイドは品よく別れの会釈をする。
シェラもそれに倣って軽く頭を下げた。
「ジェイド、金魚ちゃん、ばいばーい」
フロイドはふたりに手を振ると、ふわりと箒を浮上させた。
ジェイドとリドルと別れると、しばらくフロイドはゆったりと校舎の3階ほどの高さを飛行してくれた。
「風が気持ちいいねぇー」
「そうですね」
フロイドの言葉に同調して、シェラは目を伏せた。
穏やかな風が頬を撫でる感覚が気持ちいい。
幸い三半規管が強かったのか飛行酔いもすることなく、空を飛ぶ浮遊感を楽しむことが出来ている。
時折小鳥と並んで飛んだりもして、普通に暮らしていたら見られない景色を見ることが出来た。
「小エビちゃん、オレが良いって言うまで目ぇ瞑ってて」
「え?なぜです?」
急にそんなことを言われると、まためちゃくちゃな飛行をするのでは無いかとシェラは身構える。
「いいからいいからぁ!」
わくわくした様子でフロイドは催促する。
何を考えているかは分からないが、とりあえずシェラは言われた通り目を瞑る。
ふたりを乗せた箒がどんどん上昇してゆくのに合わせて、シェラの緊張も膨れ上がってゆく。
今どれくらいの高さなのだろう。ここでまた急降下なんてされたら、とシェラが考えていると、フロイドから合図があった。