第3章 2. 青空の涙
「つまりあなた達はお互いの匂いを嗅ぎ合って褒め合っていたと」
「その言い方やめてください」
悔しいが間違ってはいないし概ね事実だ。
事実だが、ジェイドの言い方だと非常にいかがわしく聞こえる。
珍しくジェイドは肩を震わせて笑っている。
ジェイドはアズールに生徒の〝情報〟を上納しているという。
これがアズールに共有されるかもしれないと考えるとぞっとする。
想像しただけで恐ろしく、シェラは忌々しげに表情を歪めた。
「ジェイド、何をしているんだい?次は錬金術室だろう。早く行かないと遅れるよ」
「おや、リドルさん」
シェラとジェイドがとりとめのない言い合いをしていると、ジェイドと同じクラスでハーツラビュル寮長のリドル・ローズハートがやってきた。
フロイドに抱きついているようにしか見えないシェラは咄嗟に背中に隠れる。
「あぁー!金魚ちゃん!」
「フッ、フロイド……」
フロイドの声にぎょっとしたリドルは頬を引き攣らせる。
リドルもフロイドによく絡まれ振り回されているから、この反応にも納得である。
「シェラさんもご一緒ですよ」
「え?シェラも?どこだい?」
隠れてやり過ごそうと思っていたのに、ジェイドはそうさせてくれない。
しかし挨拶をしないのも失礼だ。シェラはひょこっとフロイドの背中から顔を出した。
「こ、こんにちはリドル寮長」
「わっ!驚いたよ。二人乗りの授業かい?」
「はい。フロイド先輩が乗せてくれてます」
リドルの視線が、フロイドの腹に回したシェラの手に集中しているのを感じる。
ここは弁解するべきか。リドルは変な勘違いなどしないと思いたい。
「箒に乗ったことのないシェラはバランスを取るのは難しいだろう。初めはそうやって前に乗る人に掴まっていた方がいいね」
言って欲しかったことをぴたりと言ってくれたリドルに、シェラはこっそり感動する。変な勘違いをされなくてよかった。
「おやまあ、リドルさん。シェラさんにはお優しいのですね」
ジェイドがリドルを揶揄うようなことを言うが、リドルはそれを無視してシェラに自信溢れる笑みを見せた。
「シェラ、フロイドと一緒に乗って酷い目に遭ったらボクにお言い。後日きちんと〝安全〟に乗せてあげよう」