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泡沫は海に還す【twst】

第3章 2. 青空の涙


フロイドの背中に隠れていたシェラが、ひょいと顔を出す。

「ジェイド先輩お疲れ様です」
「ええ、お疲れ様です。空を飛ぶ心地はいかがですか?」
ジェイドは誰に対しても礼儀正しい態度を貫いている。
シェラに対してもそうで、丁寧な口調で話しかけてきた。

「死ぬかと思いました」
「なるほど、先程の悲鳴はシェラさんのものだったのですね。あまりにも凄い叫びでしたからマンドラゴラかと思いましたよ」
ジェイドは眉を下げて、口元に厭らしい笑みを浮かべた。
この表情を見せる時は、十中八九嫌味を言っている。
マンドラゴラとは魔法薬に使われる薬草の一種である。
根が人間のような形状をしていて、地面から引き抜かれるとこの世のものとは思えない叫び声を上げる、というのを魔法薬学の教科書で見たことがある。
誰がマンドラゴラだ。丁寧な態度ではあるが、本当に一言余計である。

「ええ、あなたの兄弟がそれはもう最高のスリルを味わわせてくれました」
表情の抜け落ちた顔で苛立ちを隠しながら返す。
兄弟揃って人のことを煽ったり揶揄ったりして楽しんでいるなんて本当にたちが悪い。

「楽しかったようでなによりです。それよりも、ふふっ、おふたりは本当に仲睦まじいのですね」
シェラがフロイドに抱きつくようにして箒に乗っていることに気づいたジェイドは意味深長に笑う。

「こうしないとバランスが取れないだけです」
そうシェラは事実で反論したが、昨日とは違い誰がどう見ても仲良し以上に見える。
ジェイドにこんな姿は見られたくなかったが、この体勢でないと落ちそうで手を離すことが出来ない。

「ねぇねぇジェイド。ジェイドが選んでくれた洗剤のおかげでオレ小エビちゃんに良い匂いだって褒められたぁ」
「シェラさんがフロイドの匂いを嗅いで良い匂いと……ふふっ。シェラさんにそんなご趣味が」
確かに良い匂いとは言ったが、そんな趣味は無い。
人を変態みたいに言うのはやめてほしい。

「最初に人の匂いを嗅いできたのはフロイド先輩です」
フロイドの台詞だけだと、シェラが一方的に匂いを嗅いだ様に思われる。そこは訂正しておかなければならない。
そもそも事の発端はフロイドだ。

「うん。小エビちゃんも良い匂いしたぁ」
「何言ってるんですか」
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