第3章 2. 青空の涙
「それじゃあ行くよぉ」
「くれぐれも安全飛行でお願いしますね」
面白がってめちゃくちゃな飛行をしないように、シェラはしっかりと釘を刺す。釘を刺したのだが――。
「急降下ぁーーー!!」
「えっ、私の話聞いて、うわぁぁぁっ!!」
その釘は全くフロイドには無意味だった。
この時の断末魔のようなシェラの悲鳴は、校舎内で授業を受けていた生徒のところまで響いただとか。
◇ ◇ ◇
「あははっ!楽しいねぇー!小エビちゃん!」
「死ぬかと思いました……」
愉快そうにきゃっきゃと笑うフロイドとは対照的に、冷や汗をかいたどころではないシェラは、ぐったりとフロイドの背中に頭を押し付ける。
こちとら箒に乗るのは初めてだと言うのに、いきなり最大スピードで屋根から地上に向かって真っ逆さまに飛ぶ人がいるか。
安全バーの無いジェットコースターに乗ったような気分だ。本気で死を覚悟した。
「小エビちゃんってもしかしてビビりなの?」
「フロイド先輩は私が空初めてだってことをお忘れですか?」
フロイドの煽りに乗せられるとろくな事が無いと学習したシェラは眉間に皺を寄せながら冷静に返す。
今は校舎の廊下の側を上昇している最中。
ゆっくりと下へ流れてゆく景色にシェラはエレベーターに乗っている気分だ。エレベーターにしては非常に開放的だが。
「あっジェイドだー」
フロイドは廊下を歩くジェイドを見つけたらしい。
シェラもフロイドの背中からひょいと顔を出して探してみたが見つけられない。
流石、双子の片割れの姿は直ぐに見つけられるようだ。
フロイドは彼の元へ箒を向けた。
「ジェイドぉー!」
フロイドの声が耳に届いたジェイドは足を止めた。
「おや、フロイド。今日の飛行術は2限分なのですか?」
丁度1限目と2限目の間の休み時間で、ジェイドは移動教室の最中だったらしく、手には錬金術の教科書とノート、それに実験着があった。
「うん。そぉだよー」
「今日は絶好調のようですね」
ふわふわと箒に乗って空を飛ぶフロイドの上機嫌な様子に、ジェイドは微笑ましげに口角を上げた。
気分屋なフロイドは魔法もそうだが、飛行術の調子もその日の気分で精度が左右されるとか。
「うんうん。だって今日は小エビちゃんが一緒だからねぇ」
「おや、シェラさんも?」