第3章 2. 青空の涙
「じゃあ、オレの背中にぎゅって掴まってなよ。小エビちゃんだったらいいよぉ、許したげる」
「え、それは」
フロイドの代案にシェラは言葉を詰まらせる。
背中にぎゅっと掴まる、ということは普通に箒に二人乗りをするよりも更に近い距離で乗るということだ。それはそれで困ることがある。
「なに?やなの?」
シェラが良い返事をしないことに、フロイドの機嫌が少し斜めに傾く。
ここで不機嫌になられると置き去りにされるリスクが上がる。
それはなんとしてでも阻止しなくてはならない。
「いえ、その、フロイド先輩が嫌とかではなく……」
言葉通りフロイドが嫌というわけではない。だが、本当の理由を話すのが恥ずかしくてシェラは言葉を濁す。
「じゃあなに?」
煮え切らない態度にご立腹のフロイドは1歩詰め寄る。
こうなると理由を話してフロイドに納得してもらないと、矛を収めてくれなさそうだ。
「私、さっきまで走ってたじゃないですか。だからその、汗臭いかと……」
フロイドの圧に観念したシェラは、気まずくて視線を逸らしながら言った。
シェラも思春期の女子だ。自分の体臭にはセンシティブになる年頃。
たとえ相手がフロイドだとしても汗臭いだなんて思われたくない。
理由を聞いてぽかんとしていたフロイドが、一瞬考えるような仕草をすると、突如シェラの首元に顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らした。
「なっ!?」
いきなり匂いを嗅がれたシェラは驚きのあまり身体を硬直させる。
思わず〝変態!〟と罵りそうになった。
匂いチェックを終えたフロイドはシェラから離れると、とてもいい笑顔で感想を言ってくれた。
「大丈夫。くさくないよぉ。小エビちゃんの良い匂いがする!」
「フロイド先輩……あなたデリカシーという言葉はご存知ありませんか……」
フロイドはシェラを安心させようと、良かれと思ってしたのかもしれないが、当のシェラにとってはデリカシーゼロ行為以外の何物でもない。
呆れ返ったシェラの顔がすーっと白くなる。
良い匂いと言ってくれたから良かったものの、これで汗臭いとか別の感想を言われたらどうしていただろう。多分、本気でフロイドのことを嫌いになっていたかもしれない。
「あの、そういう問題では」