第3章 2. 青空の涙
バルガスに叱られることも考えたが、段々と〝まあいいか〟と思い始めてしまう。
半ば無理矢理とはいえ、せっかくフロイドが作ってくれた機会だ。
たまには〝問題児〟になるのも悪くないだろう。そう思ったシェラはひとつ息をつき、うっすらと眉を下げて微笑んだ。
「ありがとうございます。なら、一緒にバルガス先生に叱られましょうか」
「えっ……?」
まさかお礼を言われるとは思っていなかったらしいフロイドは、シェラの〝ありがとう〟に一瞬驚いた表情を見せた。そして次の瞬間には、その顔に満面の笑みがぱぁっと花開いた。
「じゃ、行こっかぁ!小エビちゃんオレの後ろに乗ってー」
分かりやすく嬉しそうな表情をしたフロイドは箒に跨ると、柄を叩いて自分の後ろに乗るように促した。
シェラは箒に跨って柄を握る。
箒に乗るのは初めてだ。柄の座面は思っていた以上に心許なく、浮かび上がった拍子にバランスを崩しそうで少し怖かった。
「あしで柄を挟むようにしてバランス取るといいよぉ」
「は、はい……」
ちゃんとコツを教えてくれるあたり、やはり先輩だとフロイドのことを少し見直す。
アドバイス通りシェラは、脚で箒の柄を挟みバランスを取ろうといきむ。無意識に柄を握る手に力が入る。
「オレが行くよって言ったら地面を蹴ってね。……じゃ、行くよぉ」
フロイドの合図に合わせてシェラは地面を蹴った。
ふたりを乗せた箒が、フロイドの魔力でふわりと浮いた。
初めて体験する慣れない浮遊感。シェラの上体が前後左右にぐらつく。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
体勢が保てないシェラは、慌ててフロイドに一旦着地してもらうよう声をかけた。
フロイドとシェラは箒から降りた。
運動神経は良い方だから大丈夫だと思っていたが、想像以上に箒の上で姿勢を保つのは難しい。
入学したての頃、運動神経が良いはずのエースとデュースが飛行術は難しいとぼやいていたのはこういうことだったのか。
「あれ、もしかして小エビちゃん無理そ?だったらまた抱えてあげようか?」
「それは本当に勘弁してください」
フロイドの提案をシェラは食い気味で拒否した。
スリルがあり過ぎて空を飛ぶ感覚を楽しむどころではない。明日の朝日を拝めるよう願うだけで精一杯である。