第3章 2. 青空の涙
めちゃくちゃなフロイドに屈する悔しさと、落ちるかもしれないという恐怖が半々に表れた瞳でフロイドを睨みつける。
「あはっ!いい顔ぉ。怖い?ねぇ、怖いの?」
シェラを煽るフロイド。
人のことを小馬鹿にするような口調にかちんときたシェラは、フロイドの服を掴んでいた手を離し顔を背ける。
「怖くないです」
「……ふぅん」
「!?」
がくん、と身体が落ちる感覚に、シェラは咄嗟にフロイドの服を掴んだ。
シェラの虚勢がどんなものかと試そうとしたフロイドが、抱える手の力を緩めたのだ。
フロイドなら気分次第で本気で手を離しかねない。そんな危険さが声と瞳に表れていた。
シェラの意思とは関係なく、服を掴む手が震える。
「ほら、エビみたいに震えてんじゃん」
「ほ、ほんとやめて……」
既に落ちたらただでは済まない高さまで上昇していた。下を見るだけで頭がくらくらする。
落とされたくないシェラは必死にフロイドに縋りつく。
半分涙目になったシェラを満足そうに見つめたフロイドは、シェラをしっかりと抱え直して校舎の方へまっすぐ飛んで行った。
校舎の屋根にフロイドが着地すると、シェラも降ろされた。
まだ膝が笑っている。足が地についていることに今日ほど感謝した日はない。危うく転落死するところだった。
シェラは情けなく震える膝に喝を入れると、一旦冷静になろうと大きく深呼吸をした。
ふつふつと湧いてくる怒りを抑えて、まずは事情聴取をしようとフロイドに向き直る。
「どうして私を拉致したんですか」
努めて冷静に、ここでフロイドと口論になったら置き去りにされそうだ。
「小魚を後ろに乗せてもつまんねーし飽きたから」
フロイドに気を遣いすぎて震え上がるペアのメイトが想像に容易く、気の毒に思う。
シェラの非難に対しても何処吹く風。
いかにもフロイドらしい理由だが、そんな理由で授業を抜け出すようなことをしたら巻き添えを食らったシェラ共々バルガスに叱られそうだ。
「だからって授業抜け出してこんなことしたらバルガス先生に怒られますよ?」
シェラ自身はきちんとバルガスメニューをこなしていたから怒られるなんてごめんだ。
何とかフロイドにこのまま授業に戻ってもらえないか説得を試みる。